建築からインテリアまで、
すべてがつながり
リビングデザインが完成する

寺田 尚樹
建築家

Profile

1989年明治大学工学部建築学科卒業。1994年英国建築家協会建築学校ディプロマコース修了。2003年テラダデザイン一級建築士事務所設立。「テラダモケイ」など複数のプロダクトブランドの設立にも携わっている。

家具のセレクトも含めて住空間をトータルでデザインする

日本では、建築家といえば建築設計の専門家で、インテリアやプロダクトとは分野が分かれています。しかし海外では「アーキテクト」といって、インテリアやプロダクトのほか、舞台美術や展示会の空間など、幅広い分野でデザインを行うんですね。僕はそういうスタイルにあこがれて海外で学びました。そのため、帰国後も当然、「アーキテクト」として仕事をしようと考えていたんです。

そもそも、僕たち建築家の仕事は、施主のライフスタイルを具現化することだと思うんです。例えば、知人を呼んでホームパーティーをすることが多いのか、それともプライベートの空間として静かに過ごしたいのか。食事をするのもダイニングテーブルなのか、畳に座って卓袱台がいいのか、キッチンカウンターでとりたいのかでダイニングルームの設計は変わります。細かくいえば、テーブルにどんなお皿やカトラリーを置きたいかでもインテリアは違ってくるはずです。

建築、インテリア、プロダクトをばらばらに設計していては高いレベルでの完成はありません。家具のセレクトも含めて、全部を同時につなげて考える。それが「リビングデザイン」ということ
ではないでしょうか。

こう言ってしまうと、リビングデザインは「その人好みに住環境を整える」というイメージを持たれてしまうかもしれないけれど、ちょっと違うんです。住み手自身が自分なりの楽しみ方、幸せの在り方を知っていてそれをさらに広げるために、建築家やデザイナーの提案を入れつつ、自らカスタマイズすること、というほうが近いと思います。いわば「自分のライフスタイルのデザイン」ですね。

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上質なライフスタイルを発信

日本の住環境の歴史をひも解くと、長屋のひと間に家族で暮らし、食事するのも寝るの同じ部屋という時代がありました。昭和40年代くらいから団地ができて、LDKという概念が普及。食事をする部屋と寝る部屋が分離し、そこそこの生活水準までになった。そして、自分らしいライスタイルを追える段階に入ったのです。みんな同じ、「画一的な暮らし」ではなく、自分なりの幸せ、こだわりを具体化していく傾向が強まっています。ここ20~30年では、住み手がインテリアの細部や家具、照明などに注目するようになってきましたね。

そういった時代の流れを考えると、30年前、リビングデザインセンターOZONE( 以下OZONE)ができたのはとても意義深いことでした。そこに行けば、インテリアにかかわるものを一式見ることができる。僕も施主と一緒にタイルやフローリングを見て、コンランショップで家具を見て、カフェでお茶する、というルートでよく使わせていただきました。

実は、イギリス留学時代、ロンドンのナイツブリッジにあったコンランショップに足繁く通っていたんです。店頭のオイスターバーでシャンパンとオイスターを軽くやるのが最高の贅沢でした。ロンドンでの素敵な思い出だったのが、1994年に日本に帰国したら、ちょうどオープン。すごくセンセーションでした。

OZONEとコンランショップは、自分なりのスタイルを追求したい、理想の住まいを作りたいと考え始めた人たちにいいきっかけを与えました。住環境に投資すると、心が豊かになるということを示してくれたと思います。今振り返ると、当時パークタワーの空間そのものが上質なライフスタイルを発信していましたね。パークハイアット東京のニューヨークグリルでアフタヌーンティーを楽しんで、コンランショップを見てまわる。それ自体が、新しいライフスタイルの象徴だったように思います。

実績のない若手時代の励みに

OZONEでは、エキシビションやサポート展に参加させていただきました。2007年の「寺田尚樹+テラダデザイン」は、新作のスツールを中心に色と光を合わせた空間をデザインしました。2013年の「石巻工房 692‐」は、東日本大震災後、家具やプロダクトのデザイン・ワークショップで復興を支援してきた石巻工房に声をかけていただきました。僕もプロダクトデザイナーとしてかかわっていて、後年になりますが、傘立てや靴べらなどをデザインしました。

OZONEには、イギリスから帰国したばかりで業界にあまり知り合いもいない頃から声をかけていただいて、その縁で今もトークイベントやセミナーに呼んでもらっています。

実績の少ない若手にとって励みになっていたのが、コンペティションやグループ展を精力的に開催してくれたことです。サポート展を含め、展覧会のために場所を貸してくれたり、人と人をつなげる場所を提供してくれたりと、OZONEは若手をとてもサポートしてくれたと感謝しています。

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スツール「HOKKA-IDO」を中心にそのフォルムを床面のグラフィックと光で表現した
撮影:大森有起

背景を知り価値を知れば

いい家具の価値を理解してもらうために、マーケットをボトムアップすること、価値を知る人を増やすことが、大切だと思っています。

価値を知ってもらうにはどうするか。ひとつには、その家具が作られたバックグラウンドを知ってもらうことがあります。家具ひとつひとつに時代背景、メーカーの思想、デザイナーの情熱があって、それが作る工程にも反映されています。その背景を知ることで、より味わい深く感じられる。つまり、家具を楽しむということは、「〇〇というブランドだからいい」という受け売りではなく、自分なりの価値判断基準を持つことだと思うんです。もちろん、高価なものがいいものというわけではないけれど、それだけの価値がつく背景、品質を理解して使えば、愛着がわきメンテナンスもするようになる。さらに子どもにまで引き継いて永く使えれば、環境にもやさしいですよね。

これからは、空間もインテリアも家具も、提案されたものに住み手が合わせるのではなく、住み手が自分なりの住まい方を考えて自ら創造していく時代になるでしょう。そのためには良し悪しを判断できる情報が必要。そのガイド役は、僕たちプロの仕事だと思います。高いレベルのユーザーが増えてくれば、僕たちはさらに上をいく提案をしなければならない。もっと感度を上げ、リビングデザインの情報を発信し続けたいと思います。

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撮影はインテリアストア「MAARKETトーキョー」で行いました。