「デザインとは何か?」を
OZONEは発信した

川上 元美
リビングデザインセンターOZONEコンセプト委員
デザイナー

Profile

1940年兵庫県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、アンジェロ・マンジャロッティ建築事務所に勤務。1970年より川上デザインルーム主宰。毎日デザイン賞、グッドデザイン金賞、AACA賞、iF賞など受賞多数。(公財)日本デザイン振興会元会長。

世界のトップデザイナーの展覧会を開催しましたね。

コンセプト委員として開業にかかわり、館内の共用部で使用するベンチのデザインなどを手がけましたが、印象的なのは、オープン当初の「巨匠ハンス Jウェグナー展」、そして「アキッレ・カスティリオーニ展」です。世界のトップデザイナー、各人の作品の全貌がわが国で見られるなんて考えられなかった。これを杮落としにして、「リビングデザインとは何か」を発信する大きな役割をOZONEは果たしていったと思います。

OZONEの特徴とは何だったと思いますか?

「ザ・コンランショップ」はOZONEのひとつの象徴。80年代初頭、ヴィクトリア&アルバート博物館で行われたソニーの展覧会は非常に印象的でした。これを開催したのが、テレンス・コンラン氏。日本国内でも見たことがない製品や資料で歴史的・文化的な説明を加えつつ、その社会的影響まで解説していました。こうした使う人の生活を反映するような見せ方は非常に新鮮でした。コンラン氏の著書『THE HOUSE BOOK』、『THE KITCHEN BOOK』、『THE BED AND BATH BOOK』のように、コンラン氏は当時から生活全般との関係を見つめていた人です。「リビングデザインとはこういうものだ」と感じましたし、これこそがOZONEのコンセプトだと思います。

これまでさまざまな分野で仕事をしてきましたが、トータルな視点で、ものや物事を見る必要性を痛感します。例えば住まいのベーシックなパーツにしても、各メーカーがそれぞれ独自に決めるから色もモジュールも微妙にバラバラ。差異を顕在化するものと統一感を持たせるものにメリハリをつけるべきでしょう。ユーザーとともに、その視点に立つ専門職を交え、中立的な立場での研究会や問題提起、情報発信を行いながら企業をつなげていったのが東京ガスであり、OZONEでした。これは新しい運動だったと思います。

OZONE内のベンチは川上氏によるオリジナルデザイン。当時の喫煙所でも使用されており、座面はステンレスを使用。撮影:白鳥美雄
2011年には、川上氏のこれまでの活動の集大成となる展覧会をパークタワーホールで開催。時代を象徴する約80点の作品が展示された。

この30年間で日本のデザインや暮らしはどのように変化したのでしょう?

デザインの視点から見ると、コロナ禍で人々の生活観は大きく変わりました。作り手も手触りや思い出など、主観を重視する時代になり、心豊かな生活の創造を目指しています。また、デジタル環境があれば日本中どこでも仕事ができ、発信できるようになりました。デザインやものづくりもサステナブルな社会の構築を目指し、風土に合った建築や空間、環境へとシフトしています。

これからは、地方に分散する時代。移住する若い人たちも増えており、いいものを見つけるには地方に足を運ぶ必要があります。地方とどのようにつながっていくのか考える必要があるのではないでしょうか。

これからのデザインとは?

私たちは地球の有限性を強く認知して以来60年を経ますが、OZONE開設から30年の間にも、類を見ないほど急速に社会は変化しました。世界情勢の変化や気候危機の昨今、生活の環境に関しても単なる美学だけでは物事を語れない時代です。こうした社会の変化を理解しなければデザインはできません。デザインに対する期待は大きく、責任も重くなっていると考えます。

リビングデザインへの課題を考えれば、もう一度原点に戻る必要性を感じます。今はものを作るためのさまざまな技術がありますが、それでも人の手をはずせません。ものの豊かさから心の豊かさにシフトしようとする今こそ、生活への視点を見詰め直すときだと思います。