国内企業でありながら、その中心的事業としてデンマーク家具のライセンス生産に取り組み続ける岐阜県の家具メーカー:株式会社キタニ。【前編】では、化成品販売業からスタートしたキタニが、どのようにデンマークの家具文化とふれあい、伝統家具のライセンス生産へと至ったのか、その道のりについてお話しいただきました。【後編】では、キタニがその技を継承した「6名のデザイナー」と、その中でも特別な思いで復刻に打ち込むヤコブ・ケアの作品について、キタニ製品の販売を担う株式会社キタニジャパン 営業部長の蓬莱誠司さんにお話を伺いました。

デンマーク家具の伝統を受け継ぐ匠の技Kitani 東京ショールーム【前編】

キタニが継承する「6人のデザイナー」の伝統

―福祉家具を入口に北欧家具に注目してから、デンマーク側の信頼を得てライセンス生産を開始するまで、わずか数年あまりという電撃的な展開には驚かされますが、このスピード感で新規事業を軌道に乗せることができたのは何故なのでしょうか?

蓬莱 1950年代のいわゆるミッドセンチュリー家具への注目が高まってくる時期と同期したこともあると思いますが、なによりも、社長が買い付けてきた「コンテナ一杯分の中古家具」の徹底的な分析と研究、それに基づく技術が力になりましたね。2001年、2002年には、それまでの製品を集大成した「知の再生」展という展示会を地元高山と東京・青山で開催していますが、そこでも出来上がった製品を綺麗に展示するのではなく、分解された状態や骨組みなど、家具の構造と素材、そこに注ぎこまれたデンマーク家具の知恵と技術を展示内容の中心に据えました。それこそが、商社や販売会社ではなく、実際に手を動かして家具を作っている私たちにしかできないことだろうと思ったからです。

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デンマーク家具の神髄を見てもらいたい一心で開催したという、「構造」を紹介する展示会「知の再生」展(2001-2002年)

蓬莱 現在でもライセンス生産を行っているデンマークの家具デザイナー:ナナ・ディッツェルさんや、フィン・ユールさんの奥様にも講演していただくなど、この展示会は歴史的な出来事となりました。ただし、ライセンス契約は手早くとも、その家具の品質を確保し、商品として自信を持って送り出せるようになり、事業として成立させることは、けっして一朝一夕にできることではなく、長い時間が必要です。商品によっては、着手から発売までに10年を費やしたものもありました。

―何人かのデザイナーのお名前が出ましたが、キタニが現在ライセンス生産を担当しているデンマーク家具の「6名のデザイナー」について教えてください。

蓬莱 最初にライセンス生産のお申し出を頂いたイプ・コフォード・ラーセン(1921-2003)は、クリスチャン&ラーセン社のスネーカーマスター(デンマークにおける最高位家具職人の称号)の名匠で、当社の取り組みや技術をご理解いただいた上で、マスターピースや型などもたくさん譲り受けました。その後、ヤコブ・ケア(1896-1957)、フィン・ユール(1912-1989) 、シグード・レッセル(1920-2010)、ナナ・ディッツェル(1923-2005)、ベント・アンデルセン(1938-)の計6名のデザイナーのライセンスを取得し、デンマーク本国でも製作されていない名作家具28アイテムを現在もライセンス生産しています。

最近では北欧家具に限らず、多くの名作家具の安価なリプロダクト製品が出回っていますが、形は同じように見えても、キタニが徹底的に観察し、こだわってきた「構造と素材」「製造技術」という視点から見ると、まったく別物になってしまっているものが大半です。そうした中で、キタニがなぜ彼らの作品を受け継いで作り続けるのか……それは、美しさと厳選された素材、手抜きのない高度な職人の技術が集約されている彼らの家具づくりの精神、そして、家具を通じて暮らしの豊かさを求めるデンマーク家具文化に、当社も大いに共感するからこそなんです。

ヤコブ・ケアによる「プリンセスデスク」「ウィングバックチェア」

―2023年2月から4月にかけて行われていた、OZONE館内ショールームによる新作展示会において、キタニはデンマークの家具「6名のデザイナー」の一人、ヤコブ・ケア設計のライティングデスクと黒い革張りのチェアを出品されていましたが・・・

蓬莱 デスクは、デンマークの家具職人ギルド展で1950年に発表されたヤコブ・ケアのデザインによるライディングデスクを、キタニがライセンス生産した復刻品です。1957年にヤコブ・ケアが亡くなった後は、クリスチャン&ラーセン工房やWØRTS工房によって製作が続けられていたものを、キタニが引き継いでいます。1958年、デンマークのマルグレーテ王妃(現:デンマーク女王)の18歳の誕生日を記念して献上されたことから、「プリンセスデスク」という愛称が付くようになりました。

椅子は「ウィングバックチェア」と呼ばれるもので、合板や集成材は使用せず無垢材のみ、ウレタンなどの化成品も使用せず、全体の90%以上が天然素材で構成されています。もちろん、内部のバネに至るまですべて職人の手仕事で作られています。キタニのライセンス生産品の中でも自信作と言える椅子です。本当は完成品だけでなく、骨組みなどの構造、馬の毛や麻などの天然素材そのものも展示したいくらいです(笑)

―今回の展示品をヤコブ・ケア作品で揃えたように、彼の作品はキタニにとっても特別な意味があるものなのでしょうか。

蓬莱 そうですね。スネーカーマスターの称号を持つヤコブ・ケアの作品は、数々のデンマーク家具の製法をつぶさに観察してきた私達から見ても、技術面、美しさとも、まさに最高峰に位置するものです。家具デザインの世界では、どうしても1950年代のモダンな家具に注目が集まりがちですが、1920~30年代の技術を基礎に持つ、一つ前の世代であるヤコブ・ケアの仕事は、本当に精密でレベルが高いです。ですので、ぜひともヤコブ・ケアの領域に近づき、技術を受け継ぎたいという挑戦心から製品化に踏み切ったアイテムです。現在、「プリンセスデスク」の製作を担当できる職人はキタニ社内に2名しかいませんが、次の世代の職人にその技術をしっかり伝えていくつもりです。

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「OZONE館内ショールーム新作展示」にも出品された「ライティングデスク JK-115PDK」(プリンセスデスク)と、「ウィングバックチェア JK-09」。

―最後にキタニとしての今後の方向性や夢などがあれば、お聞かせください。

蓬莱 北欧最大級の規模を誇る家具とインテリアの国際見本市「ストックホルムファニチャーフェア」に出展したとき、誰も「キタニ」という社名は知りませんでした。出品している家具を見て、多くの方が「これは今、どこで作っているのか?」と尋ねてこられ、日本の高山という街だと言うと驚かれていましたが、同時に、その品質の確かさにも注目してくださいました。ヴィンテージ家具などが日常的に身近にあるヨーロッパの方は、知名度やブランドではなく、「品物の良さ」で判断してくれるのだと、思いを新たにしましたね。そういう方々に私たちが作る家具をもっと知っていただくため、海外市場に手を広げていきたいというのが、キタニとしての夢ですね。すでに中国や台湾には代理店やショップを構えていますし、支社である「キタニ・デンマーク」も10年前から稼働していますが、ゆくゆくは「キタニ・ニューヨーク」を実現させたいですね。

―あらゆるものがグローバル化し、ネットとファスト文化でつながれていく現代だからこそ、伝統の技術と手仕事の大切さをしっかりと受け継ぎ、伝えていきたい。しかし、その価値を広げていく方法は、やはり国境を越えたいという意欲にあふれるグローバルなものであるべきなのではないでしょうか。自ら「飛騨の山奥の小さな工房」と謙遜するキタニが、遠いデンマークの家具文化の風をしっかりと受け止め、それを世界に再発進していく頼もしさは、その大切さを雄弁に物語っているように思えます。

―ショールームよりメッセージ

Kitani 東京ショールームでは、ライセンス商品はもちろんですがオリジナル商品、造作家具を含め上質な時間と空間を体験できるショールームとなっていますので、皆さまのお越しをお待ちしております。

※文中敬称略


※2023年5月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

【株式会社キタニ 公式サイト】
株式会社キタニ

Kitani 東京ショールーム

館内ショールーム

飛騨高山に工房を構え、北欧名作家具を作り続けるキタニ。「ものづくり」から培った「心と技」を活かし、東京ショールームでは北欧のヘリテッジインテリアに日本独自のスタイリングと感性を調和させた上質な時間と空間を再現。一軒の家を想定した空間は、豊かさの本質から人生の姿勢を感じて頂ける特別な場所です。家具の他にもラグ、照明、小物など日々の暮らしと住まう人の心を豊かにする多彩なアイテムをご紹介しています。