ヨーロッパの住空間創造に欠かせないアイテムとして長い伝統を持つ、ドイツの家具・建具金物のブランド「Häfele(ハーフェレ)」。その日本法人:株式会社ハーフェレジャパンが運営する【ハーフェレジャパン新宿ショールーム】が、2023年9月にリニューアルオープンしました。同7Fフロアの中で約3倍にスペースを拡大しての移転となり、展示アイテム点数や体験スペースも一気にレベルアップした今回の増床リニューアルのねらいとは?
1923年創業の独ハーフェレ社の精神を引き継ぐ日本法人としてのこれまでの歩みなどについて、株式会社ハーフェレジャパン新宿ショールームのマネージャー大木 聡さんにお話しを伺いました。
「輸出」と「統一規格」を見据えた創業の精神
―まずは、ドイツのハーフェレ本社誕生の経緯やこれまでの歴史などをお話しください。
大木
日本で言うと大正12年、1923年の設立ですから、2023年でちょうど創業100年となった会社です。
アドルフ・ハーフェレとヘルマン・フンクという二人の若者が興した、建具職人の為の専門店だったそうです。当初から、国境を意識しない視野を持っていたことが、現在の組織の規模と強さを生み出した要因の一つとなっております。実際、創業の10年後にはドイツからの製品輸出に乗り出し、近隣諸国の見本市などにも積極的に出展するようになっていったそうです。
そして現在では、ハーフェレは世界中の150ヵ国以上のマーケットに製品を販売しており、ハーフェレのドイツ本社が新たな市場の開拓を全面的にサポートしています。木工に関する家具用の金具から、また高度な技術と提供するソリューションに至るまで、総合的なノウハウを有する信頼のおける会社としての地位を確立しております。
―ハーフェレ社の作り出した統一規格が、実際に家具・建具業界のスタンダードになっていった例などもあるのでしょうか?
大木
創業からかなり後の話になりますが、代表的な例として1983年にセントリックボール原理を用いた「ミニフィックス®」というコネクターシステムを開発しています。これはパネルの中に埋め込むタイプの組み立て家具専用のコネクターです。この金具により、家具の部材一式をコンパクトに梱包し、配送することができるようになりました。これは、「空気を運んでいるようなもの」と揶揄されていたキャビネットなどの箱状の家具の出荷時の容積=輸送コストを大きく削減することに成功しました。
「ミニフィックス®」は、あらかじめ使用するボードの中で取り付けできるように加工をしておくことで、現場での取り付け作業をより簡単にし、パネルをつなぎ合わせて金具で締め付けるだけという、ワンアクションでの強固な接合を可能にするものでした。これが、セルフDIY式家具の基本システムとして、現在もなお、世界中に普及しています。
ワールドワイドな企業グループとしての特徴
―以前に取材させていただいたときは、オーストリアの木質ボードメーカー、フリッツ・エガー社(EGGER)の製品についてのお話が中心でした。 ※「金具と板材の表裏一体の関係を紡ぐ ハーフェレ ジャパン新宿ショールーム」(2022年6月掲載)
このようにハーフェレさんは、家具・建具の金具メーカーとして顔の他に、自社製品以外の、さまざまなインテリア関連企業の製品を取り扱う商社としての側面もあるように思えるのですが。
大木
確かにそうですが、私たちハーフェレジャパンと各国々の市場におけるニーズは必ずしも一致しませんし、他の国の子会社もそれぞれ違った性格を持っています。また、世界中にネットワークを持つ、ワールドワイドな企業グループであるということも大きな特徴です。
他メーカーの製品をハーフェレブランドで販売する形式、いわゆるOEM製品もたくさん扱っていますし、協力会社も世界中にあります。製品は優秀ながらも世界的な営業力を持たない会社はたくさんあります。そういう企業にハーフェレブランドを活用してもらって、世界中に製品を行き渡らせていく……。そういうお手伝いもしています。
また、日本は古くからインテリア関係の輸入業者が発達していますが、他の多くの国ではそのような業者の数はそう多くはありません。そうした国では、むしろ商社機能を強く発揮して、ヨーロッパのインテリア製品全般をハーフェレを通して輸入するような形を取る場合もあるわけです。
「金具」の範疇を超える新しいフィールドへの挑戦
―家具・建具用の機能性金具というハーフェレ本来の領域を超えた、さまざまな新しいフィールドの商品の取り扱いにも挑戦されていますね。
大木
そうですね。特に注目していただきたいのは、家具照明システムの「LOOX」というブランドです。
LED照明の一般化・小型化が進み、家具と照明器具は別々の商品ではなく、一体的に扱われることが増えてきました。要するに家具の一機能として照明の組み込みが可能になってきたわけです。クローゼットやキャビネットの照明をはじめ、引き出しの中にも設置できるほどに薄く、細く作られた「LEDテープライト」という照明器具の登場が、家具と照明との一体化を加速させています。
そのため私たちも、家具やキッチンのメーカーさん、ハウスメーカーさんなどを対象に、あくまでも家具の機能の一部としての照明器具を販売しています。
例えば、クローゼットの扉を開くと点灯する、引き出しを開けると点灯するような仕組みのものです。これらはコンセントから直接電源を取り入れる仕様にしてあるので、誰でも簡単に取り付けが可能な製品になっているものです。これらの製品もやはり、どの国々でも使用できるように輸出を強く意識した商品として、あらゆる国の電圧や法令に対応できる電子トランスを実装しています。
―LOOXブランドでは、照明計画や見積の無料サービスも行っているそうですが。
大木
オンラインで必要な諸条件を入力していただくことで、専門のスタッフが無料で照明計画をご提案するサービスです。もちろん、先ほどの話のように、LOOXの専門はあくまでも家具まわりの照明なので、室内の照明計画全体というよりは、「テレビボードの下に間接照明を取り入れたい」「洗面ミラーのフレームをライトアップしたい」「キッチンの棚下灯に合う照明は?」など、家具にまつわる照明計画のご提案となります。
建築家さんや工務店さんも細かな家具の照明装置までは手が回らないことがありますので、家具用照明の専門家である私たちがその部分をカバーし、実際に家具を製作するメーカーさんとの仲立ちをするような役割が果たせればと考えています。
ショールームリニューアルのねらいは?
―今回リニューアルしたショールームですが、見渡してみると、ハイグレードな製品が集めてある印象ですが、近年のハーフェレジャパンの販売戦略自体が、こうした方向性に向いていると理解してよいのでしょうか?
大木
いえ、そうではありません。
先ほどの「ミニフィックス®」のように、やはり当社の根幹は小さな金具製品にありますので、それこそ単価数円の製品の取り扱いがあります。しかしながら、弊社で扱っている製品を全て網羅するには展示スペースがとてもたりませんでした。そして今回は、実際の生活シーンをイメージできるようなレイアウトで金具を試せる展示スペースを目指しました
例えば、オフィス、キッチン、ベッドルームなど、生活の中での具体的なシーンを、驚くような新しい機能とともに体験していただき、かつ、それを陰で支えている弊社の機能性金具の存在を一緒に知っていただきたいというのが真意です。さらに、今回のレイアウトでは普段は容易に見られない、触れられないものを体験していただくための製品を中心にセレクトしていますので、ハイグレードの製品が集まっているという印象になっているのかもしれません。
家具や建具に関する機能性金具は、高機能でハイグレードなものであればあるほど、「見えない」「気づかれない」ことが重要になってきますので、カタログやウェブサイトはもちろん、単純に商品を展示してあるだけでは、その存在や魅力が伝わりにくいわけです。そうした操作性・機能性を、生活シーンをイメージできるような空間で体感し、丁寧なご説明を添えてより深く知っていただくこと。その体験を、大規模展示会のように数日間限定のものではなく、日常的に提供できるようにすること。一組のお客様のために1時間でも2時間でもじっくりと説明ができること。それが、今回の新しいショールームのねらいになります。
大木 単純に現行商品を並べているだけではなく、金具の機能が支える新しい生活価値の提案やトレンドも積極的に発信していきたいとも思っています。そのためにも、これまで以上の頻度で展示替えをしていく予定です。また、未発売のコンセプトモデルや参考出展品なども交えた展示内容にしてあるのも特徴の一つです。
―丸ごとキャビネットに収納できるベッドや、まったく金具の見えない引き戸、自動開閉や内部照明付きの引き出しなどを自ら操作できるスペースは、新しい驚きに満ちた、未来的な体験のできる空間に仕上がっています。OZONE 7F【ハーフェレ ジャパン新宿ショールーム】を訪れていただき、斬新な操作性や機能性、その奥にあるハーフェレが提案する新しい生活価値に、ぜひ自らの手で触れてみてください。
―ショールームよりメッセージ
ドイツにて創業100年を迎えたハーフェレ社が誇る、高品質、高機能の収納ユニットシステム、引戸金具、家具照明システムなどヨーロッパ最新トレンドの家具建具金物の数々を、キッチンやリビング、オフィスなどのアプリケーションをイメージして展示し、実際に動かして操作性や機能性を体感できるショールームとなっています。
※文中敬称略
※2024年2月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。