島崎 信×萩原 健太郎 クロストーク vol.1
「20年後を見据えた住まいづくり」前編

2022年5/21(土)に開催した、島崎信先生と萩原健太郎さんのクロストークセミナーの様子を、前編・後編のテキストアーカイブにてお届けします。
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※開催は終了しています。

今回のテーマは「20年後を見据えた住まいづくり」

家づくりには不安がつきものです。これから家づくりをする方は、ハウスメーカーや建築家などがすすめるものをそのまま参考にしがちですが、それらは一般論であり、自分や家族にも合うかどうかは分かりません。

その土地、家に暮らすのは自分です。 自分の納得のいく家づくりをするためには、今、自分はどんな暮らしをしているのか、将来、どんな暮らしをしたいのか、を明確にすることが大切です。
家づくりを始める前に考えるべき4つのポイントについて掘り下げていきます。

・平日の過ごし方を考えてみる
・休日の過ごし方を考えてみる
・将来を見据えて、建具、家具、インテリアを揃える
・終の住処として考えるか


前編では「平日の過ごし方を考えてみる」「休日の過ごし方を考えてみる」のお話をご覧ください。

― プロローグ

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島崎 OZONEが家づくりのことをやっているのでこの企画が生まれたわけですが、かねがね私は家づくりに対して、一家言ではなくて、"十家言"ほど持っているんですね。その一つは、有名な建築家やデザイナーに依頼すれば、いい家ができるという妄想を持っている人が多いんじゃないかということです。とんでもない話なんです。

家というものは地球上の一片、あなただけの土地です。住まい方も他の誰とも違う。唯一のかたちを考え出すことなんです。しかも、それに出すお金は一生で一番の買いものだったりするわけでしょう。それなのに、建築家やハウスメーカーなどに任せるというのはとんでもないこと。住む人が主体にならないといけない。建物の色やかたち、素材などは次の問題で、それよりも自分が生活するとはどういうことなのか、きちんと考えなければならない。ハウスメーカーが、雑誌やテレビで言っていることは一般論なんですよ。みなさんも隣の人と同じ生活をしているわけじゃないでしょう。

日本では、「衣食住」といいますけども、これは発音のしやすさからこのようにいっているだけで、生活の順番からいくと、「食住衣」なんですよ。まずは、食べるということをしなければ生きていけませんから。その次は生活の基本となる住まい。それからファッションです。住について世界と比較すると、日本は非常に軽く考えていると思います。気候が温暖ということもあったかもしれないけど、もっと暮らすということについて考えていただきたい。

今回のタイトルで、「20年後〜」と謳っていますが、他所でこんな話をするんだよ、と言ったら、「20年先なんて世の中どうなるかわかんないのに考えられない」と言われました。これがいけない。想像力がなさすぎる。世の中が変わるといったって、たいして変わりませんから。起床して朝食をとって、働いて、夜に団欒をして寝る、というようなパターンは変わっていかないんですよ。今、スマホやITなどが騒がれていますが、19世紀には電気や蒸気機関車ができたんですから、20世紀なんてたいして変わっていません。とにかく、20年、30年先くらいのことをお考えください。なぜなら、ローンが終わるのはそのくらいの時期でしょう。そのときに、「しまった」ということにならないように。


萩原 今日のクロストークについて、島崎先生と4つのテーマを設けて進めようということになりました。「平日の過ごし方を考えてみる」「休日の過ごし方を考えてみる」「将来を見据えて、建具、家具、インテリアを揃える」「終の住処として考えますか」の4つです。

― 平日の過ごし方を考えてみる

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萩原 まず、「平日の過ごし方を考えてみる」っていうのは、以下のようなことが考えられます。
(例)
共働きですか?
「朝、トイレや洗面所はかちあいませんか?」
「夕食は家族揃って食べられますか?」
子どもはいますか?
「男の子? 女の子? 何人?」
「勉強は子ども部屋? それともリビング?」
「家のなか? それとも外で遊ぶ?」
両親と同居の可能性は?
「間取りは変えられますか?」
「バリアフリーに対応できますか?」
など...
20年後を想像すると、いろんなことを考える必要が出てきます。


島崎 コロナ禍になって、いろんなところから話を聞いておもしろい、と思ったことがあります。コロナの前は、夕食も一緒じゃない、なかなか一緒に集まれないなど、家族がバラバラの暮らしになっていました。それがコロナになって、父親が家で仕事するとか、家族が顔をあわせるようになったら、なんとなくぎこちない。もともと家族を大事にする国なのに、人間関係が崩れていたんですよね。そういう意味では、コロナをきっかけに、いろいろと考える機会が来たのではないかな。

水まわりを例に考えてみると、1箇所しかないと、生活のパターンから重複することが出てくるんじゃないか。私は子どもがいないので、夫婦2人の暮らしですが、水まわりは2つあります。4人家族の場合とか、朝のラッシュアワーはどうしているんだろう、と。トイレや洗面所が1つでいいのか、そういうところから家のことを考え始めてもいいように思います。

それから、学齢になるから子ども部屋をつくるなんていうのはナンセンスですよね。だって、小学校に上がって、部屋に学習机のセットを入れて、親が「勉強しなさい」って言ったって、一人で集中して勉強なんてできるわけがないですよ。ゲームか何かをやるのがせいぜいであって、団欒のなかの方が勉強できるでしょう。

昔、住宅の設計をやったことがあり、何軒かの家にビッグテーブルをつくった経験があります。幅が1m20cm、長さが2m50cmから3mくらいです。片側に食器棚、反対側に本棚を配置したりしました。そうすると、父親は晩酌、母親は読書、子どもは勉強、なんていう使い方ができる。約80cm四方のスペースがあれば、自分のエリアが生まれるわけです。子どもは気軽に質問できるし、親はすぐに書棚から百科事典を取り出せて、疲れてきたらお菓子やお茶を出せる。結構好評でした。

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ヘルシンキのアパートに暮らすデザイナーでありコレクターの男性の部屋

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夫と3人の幼い子どもたちと ヘルシンキのアパートに暮らす女性イラストレーターの家

ある時期、バリアフリーといって、家のなかに手すりをつくると、ハウスメーカーが大騒ぎしたことがありました。しかし狭い家であれば、手すりなんてつけなくても、戸棚やテーブルに手をつくだけで十分な手すりになるわけです。まあ、そうはいっても、症状はいろいろですから、のちのち手入れする、リフォームするということを考えておかなければならない。家は完成品ではないので。

両親との同居というのも、ずいぶん難しい問題ですよね。地方から出てきた人などは、親が一人になって心配だから自分のところに引き取ったりするけど、これが親孝行に見えて、実は親からしてみれば環境が変わってしまった、知り合いがいなくなってしまった、ということがあります。外へ出なくなって、引きこもりになって、という例をずいぶん見てきました。そういうことも考えなきゃいけないけど、なかなか難しいかな。

萩原 僕自身、地元の大阪に中古マンションを買ってリノベーションをしたんですけど、仕事場として使うことを想定していたか、ペットのことを考えてフローリングを選んだか、将来のことを真剣に考えたか、など、反省すべき点も多いです。あと、地方から東京へ、というようなお話がありましたが、僕は今、東京にワンルームを借りていて、東京と大阪の二拠点生活をしています。そういう暮らし方も増えてきていますよね。

島崎 これからの時代の暮らし方というのは、変わってくると思うんですよ。通勤に1時間も、1時間半もかかるのは、トータルで考えたらすごいロスなんですね。それなら、仕事の内容にもよりますが、狭くてもいいじゃないですか。平日は便利なところで暮らし、休日は自然のなかで過ごす、そういう二重生活も考えられるんじゃないですか。

萩原 今先生もおっしゃいましたが、次に、休日の過ごし方についても考えてみたいと思います。

― 休日の過ごし方を考えてみる

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萩原 以下のようなことを挙げてみました。
(例)
家で過ごすことが多い?
「映画を観たり、読書をしたり、料理をつくったり?」
「友人を招いてガーデンパーティーを開いたり?」
外出が多い?
「車は持っていますか?」
「キャンプなどのアウトドアは好き?」
「それらの駐車場、収納スペースは必要?」
趣味は何?
「料理が好きだからキッチンは広めに」
「DIYのためのスペースが欲しい」
「大画面で映画を観たい、楽器を演奏したい」
など...

島崎 私は武蔵野美術大学の教授をしたり、スタッフを抱える事務所を経営したり、著作を書いたり、いくつもの仕事をしてきました。これからの時代、終身雇用で一つの会社にずっといられるかどうか、難しくなってきたと思います。もっといえば、自分が専門と思っていることが果たしてどうなのか、と。会社内の部局での専門であって、フリーランスとして専門でいられるのか考えなければならない。そういうことを考えると、僕は休日というのは、いわゆる趣味とか遊びのための日ということではなく、自分の専門の仕事をするためのフリータイムというふうに思えるんですよね。これは島崎の考えですから、押しつけているんじゃないですよ。ですから、休日に繁華街が混みあうのを見ると、せっかくのチャンスにくたびれてしまってもったいない、と思ってしまいます。

趣味について、ある人が言っていました。外国の人の趣味と、日本人の趣味は別ものだと。趣味が高じてプロになるというケースが外国では多いです。もちろん楽しむということも大いに必要なことだと思っていますので、否定しているわけではないけど、休日の過ごし方というのは、人生におけるチャンスの時間ですから。

萩原 僕は先生がおっしゃったことが励みになりました。僕はもともと労働意欲が足りない人間というか(笑)。サラリーマンのときにはそこまで仕事に本気になれませんでした。ただ、旅行が好きで、それで写真も撮るようになって、子どもの頃は作文が得意で、そういう自分の好きなことをまとめて仕事にして、今に至っています。日本だと、趣味を仕事にしちゃうと純粋に楽しめなくなるという意見の方が多いように感じていて。実際、僕もフリーになったときに言われました。最近も、僕はアイスランドに行きたくて、出版社に企画を通して、ルートを決めて、レンタカーを借りて、写真を撮りながら旅して、最終的に書籍というかたちにしました。仕事嫌いの僕にとっては、理想の生き方です。

ただ、家づくりに関していえば、もしかしたら僕のスタイルであれば、出身地である大阪とかにこだわらなくてもよかったのかな、と思ったりもします。さらにいえば、持ち家ではなくて賃貸、さらにいえば、バンライフのような暮らし方の可能性もあるのかな、と。

島崎 休日だけでなく平日も、日常の暮らし方で大事なことっていうのはいっぱいあります。それらをきちんと把握して、どのくらいのスペースが必要か、さらに、収納などのどういう機能が必要なのか、起きてから寝るまでの暮らし方をメモしてみるというのも一つのやり方だと思います。雑誌やテレビなどがいう一般論も無視するわけではないですが、それに動かされるだけではない。自分自身の暮らし方を考える、これは人生を考えるのと同じこと。そういうことを話したときに、共感してもらえる建築家とめぐり会えるということがキーになるんじゃないかなあと思いますが、どうでしょうか?

萩原 次は、将来を見据えて、どういう建具、家具、インテリアを揃えたらいいのか、という話に移りたいと思います。

―前編はここまでです。後編は残る2つのポイント、
「将来を見据えて、建具、家具、インテリアを揃える」「終の住処として考えるか」
についてのクロストークをお届けします。

クロストークセミナーvol.1 後編はこちら

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シリーズ第3弾開催!「北欧のサマーハウスと、暮らしのメンテナンス」

本クロストークシリーズvol.3「北欧のサマーハウスと、暮らしのメンテナンス」を、2022年9/10(土)に開催いたします。
島崎先生・萩原さんに対面でご質問等をしていただけるリアルの場での開催となります。ぜひご参加ください。

詳細はこちら

島崎 信(Makoto Shimazaki)
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1932年、東京都生まれ。
56年、東京藝術大学卒業後、東横百貨店(現東急百貨店)家具装飾課入社。
58年、JETRO海外デザイン研究員として日本人ではじめてのデンマーク王立芸術アカデミー研究員となり、60年、同建築科修了。
帰国後、国内外でインテリアやプロダクトのデザイン、東急ハンズ、アイデックの企画、立ち上げにかかわるかたわら、武蔵野美術大学工芸工業デザイン科で教鞭を取る。北欧やデザインに関する企画やセミナー、著作などを数多く手がける。
武蔵野美術大学工芸工業デザイン科名誉教授。
北欧建築デザイン協会理事、日本フィンランドデザイン協会理事長、公益財団法人鼓童文化財団特別顧問、有限会社島崎信事務所代表。

萩原 健太郎(Kentaro Hagihara)
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ライター・フォトグラファー。
1972年生まれ。大阪府出身。関西学院大学卒業。
株式会社アクタス勤務、デンマーク留学などを経て2007年独立。
東京と大阪を拠点に、デザイン、インテリア、北欧、手仕事などのジャンルの執筆および講演、百貨店などの企画のプロデュースを中心に活動中。北欧、インテリア、民藝を中心に多くの著書がある。
日本文藝家協会会員。日本フィンランドデザイン協会理事。北欧建築デザイン協会(SADI)会員。

萩原健太郎オフィシャルサイト「Flight to Denmark」


※2022年5月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

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