島崎 信×萩原 健太郎 クロストーク vol.1
「20年後を見据えた住まいづくり」後編

2022年5/21(土)に開催した、島崎信先生と萩原健太郎さんのクロストークセミナーの様子を、前編・後編のテキストアーカイブにてお届けします。
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※開催は終了しています。

今回のテーマは「20年後を見据えた住まいづくり」

家づくりには不安がつきものです。これから家づくりをする方は、ハウスメーカーや建築家などがすすめるものをそのまま参考にしがちですが、それらは一般論であり、自分や家族にも合うかどうかは分かりません。

その土地、家に暮らすのは自分です。 自分の納得のいく家づくりをするためには、今、自分はどんな暮らしをしているのか、将来、どんな暮らしをしたいのか、を明確にすることが大切です。
家づくりを始める前に考えるべき4つのポイントについて掘り下げていきます。

・平日の過ごし方を考えてみる
・休日の過ごし方を考えてみる
・将来を見据えて、建具、家具、インテリアを揃える
・終の住処として考えるか


後編は「将来を見据えて、建具、家具、インテリアを揃える」「終の住処として考えるか」のお話をご覧ください。

― 将来を見据えて、建具、家具、インテリアを揃える

萩原たとえば、ソファーベッド。僕自身、東京のワンルームの部屋で使っていますが、簡易的に寝られればいいし、映画を観たりするときは背もたれを上げればいいし、一石二鳥で便利です。あと今だったら、在宅で仕事をする人も増えているから、ライティングビューローなんかも使い勝手がいいのかな、と。フォールディングチェアも、折りたたんで庭に持ち出したり、車に積んでキャンプに行ったり。いろんな使い方ができそうですね。

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島崎今の話と関係しますが、スペースを節約してコンパクトに暮らす「スペースセービング」についての本を、今年末、来年になるかもしれませんが、出版する予定です。空間節約というのは、これからの大きなポイントだと思っています。

パワーポイントで紹介されているソファーベッドとライティングビューローはデンマークのものですけど、私が留学していた1950年代のデンマークでは、アパートは木骨煉瓦造りが多く、築100年、150年なんていうのは普通でした。家族のスペースは、4人暮らしでもたかだか60㎡ほどでした。そのため、生活はコンパクトにしなくてはならない。

ソファーベッドは、ハンス・J・ウェグナーがデザインしたものです。ライティングビューローは中世からありますけど、デスクワークをしないときは戸棚になり、事務用品やパソコンなどを収納できます。フォールディングチェアは、「ニーチェア」といって新居猛さんがデザインしたもの。新居さんから委託されて私がアレンジを加えましたが、折りたたんだ際、壁に寄りかからせる必要はなく、自立します。輸出もされていて、よく売れています。

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ソファーベッド(左)、ライティングビューロー(中央)、フォールディングチェア(右)

最近、「断捨離」なんていう言葉を聞くけど、よくそんな恥ずかしいことができるな、って思います。全部自分で買っておいて、今度は捨てるなんて(笑)。ずいぶん無駄なことをしているな、と。

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名作椅子は、必ずしも座り心地がいいとはかぎらない?

萩原今日のテーマからは少しずれますが、島崎先生といえば、名作椅子の話を聞きたい方も多いのでは、と思い、名作椅子を紹介するページをつくりました。僕は以前、先生が武蔵野美術大学で開講されていた「椅子学講座」を受講させていただいたんですけど、印象に残っているのが、「名作椅子は必ずしも座り心地がいいわけではない」というお話でした。

島崎名作椅子といわれているものには、他の椅子に大きな影響を与えたり、新しい素材や技術が生まれたり、いろんな意味あいがあります。ただ、それらの座り心地がいいかといえば、あなたがたの体は一人ひとりが特殊なんです。背が高い人、低い人、肉づきがいい人、悪い人、いろんな人がいるのに、寸法は一般論でやっているんだから。実際に座ってみて、自分にあう椅子を選ぶということが大事なんですね。

萩原では、最後のテーマ、「終の住処として考えますか」です。

― 終の住処として考えますか

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萩原ご存知の方も多いと思いますけど、島崎先生は1958年、デンマークにはじめてデザイン留学された日本人です。その当時のことについてお話いただけますか?


島崎26歳のとき、日本がまだ自由化されていない頃、海外のデザイン事業を調査して報告するというミッションがありました。当時の日本はイミテーション大国で有名でしたからね。デザインをやっていた若い人たちが4人ずつ派遣されました。私がデンマークを希望すると、「デンマーク? 酪農や体操を習いに行くんじゃないよ」と試験官に言われました。それだけ、デザインのことが知られていなかったんです。余談ですが、デンマーク体操が、今の日本のラジオ体操のもとになっているんですよ。

デンマークへ渡って、最初の2ヶ月ばかり、下宿をしました。リタイアされたご夫婦が暮らす街中の一軒家でした。1920、30年代の不景気が終わった頃に建てられた建売の住宅だったんですね。

家のなかは、1階の玄関を入ると、すぐに2階への階段がありました。階段の脇の廊下を進むと、左側に居間、突き当たりには台所、階段下の部分に家主の寝室がありました。2階に上がると、すぐにシャワールーム、そして部屋が2つありました。それぞれの部屋に、洗面台、ベッド、テーブルなどが備えつけられていました。

フルペンションという契約で借りていましたから、朝昼晩の3食をつくってくれました。そうすると、朝食は何時から、テーブルの席はここ、ナプキンリングはこれ、などが決められます。お弁当はオープンサンドイッチ。黒パンにバターを塗って、前日の夜に残った料理、ミートボールとかをのせて包んでくれたものでした。夕食は、何時頃に帰ります、と伝えておきます。日本人はお米を食べると聞いたからと、お米にミルクと砂糖を入れて煮たデザートが出てきて、びっくりしたことがありました。

このように2ヶ月ほど暮らしていたのですが、このときに子どもが2人いることを聞きました。以前、2階の2部屋はそれぞれの子ども部屋として使っていたのです。デンマークでは一般的に、子どもは高校を卒業すると親元を離れますが、そうすると子ども部屋が空くわけでしょう。だから老後は、その空いた部屋を人に貸して生計を立てていく、というのが、あらかじめ家の構造として考えられていたのです。

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日本の場合はどうでしょうか。一戸建ての場合、子どもたちが出て行って、2階の子ども部屋が物置になり、老夫婦が1階部分だけで暮らしていたり、団地の場合、住人の平均年齢が上がり、バスもほとんど通らなくなり、ゴーストタウンのようになっていたり、などよく聞きます。当初から、将来人に貸すかもしれない、という選択肢を持っていれば、変わったかもしれませんよね。デンマークの下宿先とは、その後もやりとりがありましたが、今ではお子さんたちが継いでいるそうです。日本だと、ローンを払い終わったときには家の財産的価値がほぼ失われてしまっていますけど、きちんと次の世代に引き継ぎ、社会的資産として残っていくといいのに、と思います。

世界で一番古い建造物というのは、日本にあるわけですよ。そういう歴史のある国がですね、戦後、建造物を工場生産のように考えるようになっています。ニューヨークの「エンパイアステートビルディング」なんかは竣工から100年が経とうとしているのに、日本だとオフィスビルを50年で壊すということが普通になっていることに、私は批判的なところがあります。

住まいについても、自分たちがいなくなった後も、子どもたちが住み続けていけるかどうか、立地条件なども踏まえて家づくりを考えられるといいと思います。

萩原あと、居心地の良さ、ということについてもお聞きしたいです。日本だと南向きの部屋が人気ですが、北欧だと西向きが好まれます。緯度が高い北欧では、やわらかな夕日が長く射し込むから、その時間を有効に楽しみたい。つまり、既成概念に縛られることなく、気候とか、好きな時間帯とか、何をして過ごしたいとか、そういうことを考えて、家のレイアウトなども考えたらいい。そういう何気ない毎日、「ハレとケ」であれば、「ケ」を大事にした方がいいと思います。特別な一日ではなく、「日常に細やかな神経を行き渡らせて、自分の好きを追求する」というのが、今回のクロストークのテーマでもあります。


島崎どこの世界よりも、どの季節でも、自分の家にいるのが一番心地よくて、落ち着くという家を持つべきだと思います。毎日の暮らし、その平凡な、といったら語弊があるかもしれないけど、イベントでもない、来客があるわけでもない、そういう日常を愛しんで、大切にする神経を持つべきなんです。そのために、日々のことをメモしたり、雑誌の気になる記事をスクラップしたりして、ノートをつくることをおすすめします。

―後編はここまでです。前編では、
「平日の過ごし方を考えてみる」「休日の過ごし方を考えてみる」
についてのクロストークをご覧いただけます。

クロストークセミナーvol.1 前編はこちら

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シリーズ第3弾開催!「北欧のサマーハウスと、暮らしのメンテナンス」

本クロストークシリーズvol.3「北欧のサマーハウスと、暮らしのメンテナンス」を、2022年9/10(土)に開催いたします。
島崎先生・萩原さんに対面でご質問等をしていただけるリアルの場での開催となります。ぜひご参加ください。

詳細はこちら

島崎 信(Makoto Shimazaki)
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1932年、東京都生まれ。
56年、東京藝術大学卒業後、東横百貨店(現東急百貨店)家具装飾課入社。
58年、JETRO海外デザイン研究員として日本人ではじめてのデンマーク王立芸術アカデミー研究員となり、60年、同建築科修了。
帰国後、国内外でインテリアやプロダクトのデザイン、東急ハンズ、アイデックの企画、立ち上げにかかわるかたわら、武蔵野美術大学工芸工業デザイン科で教鞭を取る。北欧やデザインに関する企画やセミナー、著作などを数多く手がける。
武蔵野美術大学工芸工業デザイン科名誉教授。
北欧建築デザイン協会理事、日本フィンランドデザイン協会理事長、公益財団法人鼓童文化財団特別顧問、有限会社島崎信事務所代表。

萩原 健太郎(Kentaro Hagihara)
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ライター・フォトグラファー。
1972年生まれ。大阪府出身。関西学院大学卒業。
株式会社アクタス勤務、デンマーク留学などを経て2007年独立。
東京と大阪を拠点に、デザイン、インテリア、北欧、手仕事などのジャンルの執筆および講演、百貨店などの企画のプロデュースを中心に活動中。北欧、インテリア、民藝を中心に多くの著書がある。
日本文藝家協会会員。日本フィンランドデザイン協会理事。北欧建築デザイン協会(SADI)会員。

萩原健太郎オフィシャルサイト「Flight to Denmark」


※2022年5月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

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