島崎 信×萩原 健太郎 クロストーク vol.4
「北欧の冬ごもり〜家でのヒュッゲな過ごし⽅」後編

2022年11/12(土)に開催した、島崎信先生と萩原健太郎さんのクロストークセミナーの様子を、前編・後編のテキストアーカイブにてお届けします。
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※開催は終了しています。

今回のテーマは「北欧の冬ごもり~家でのヒュッゲな過ごし方」

北欧の暮らし方を例に、日本の暮らしの中での自分にとってのヒュッゲとは何かを探ります。
今回のクロストークでは、日本の生活でもヒュッゲな過ごし方をするために

・ヒュッゲを生み出す光
・ヒュッゲを生み出すインテリア
・自分なりのヒュッゲを探すには

...といったポイントについて話を展開していきます。

後編は「ヒュッゲを⽣み出すインテリア」「⾃分なりのヒュッゲを探して」のお話をご覧ください。

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― ヒュッゲを⽣み出すインテリア

萩原それでは、インテリアに話題を移したいと思います。繰り返しになるかもしれないし、このあたりのお話はよくするんですけど、北欧のインテリアの評価が高いのは、次のような理由があると思うんです。

まず、北欧の冬は⻑く、暗く、寒い。だいたい1年の半分ぐらいが冬です。そうすると、家にいる時間が長くなり、居心地のいい空間を求めるようになりますよね。ただ、北欧は物価が高い。物価を比較するのに、「ビッグマック指数」というのがあるんですけど、日本が390円に対して、ノルウェーは864円もするんです。それだけ物価が高いと、必然的に外食を控え、ホームパーティーが増えます。なおさら、自分が着飾るためのファッションよりも、自分たちはもちろん、ゲストが快適に過ごせるように、インテリアにお金をかけるわけです。

島崎 ホームパーティーといってもね、ポットラックといって、各自で食べるものを持ち寄って参加するパーティーなんです。あなたはケーキをつくるのが得意だからお願いね、その代わりに私は...というスタイルです。そもそも、デンマークは伝統的に外食をしないですけどね。今の世代は変わってきているでしょうけど。そして、食事より何より、一番大事なのは会話です。

会話の重要なことは、相手の話を理解する、それを広げられる知識を持っているか、ということなんです。「へえ」「そう」で終わったら、会話が弾まないんで。会話の中身というのは、とても重要なんです。

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萩原 もう少しインテリアの話を続けると、物価が高いから、長く使い続けられるものを選ぼうとする。長く使い続けられるものとは、飽きのこない、流⾏に左右されないデザインで、さらに丈夫で、修理ができる構造であることが条件になると思います。そうした要求に応えるために、デザイナーも職人もレベルが高くなると思うんです。そして、それらの北欧家具は、世界中へ輸出されていくわけです。

島崎 デンマークには600万弱の人口しかいないわけで、国内需要だけでやっていては、産業が成り立たないんですよ。だから、小さなメーカーでも、海外に顧客を持っていますね。

萩原 デンマークには名作と呼ばれる椅子が多いのですが、そのなかから僕の視点でヒュッゲな雰囲気を生み出してくれる椅子を選んでみました。

1脚目は、「エッグチェア」。コペンハーゲンのSASロイヤルホテルのロビー用に、アルネ・ヤコブセンによってデザインされました。旅行客がたどり着いたとき、疲れていたり、落ち着かなかったりすることがあると思うんですが、エッグチェアに座ると、包まれるというか、ルームインルームとまでは言い過ぎですが、ほっとできると思うんです。

島崎 もともとイギリスあたりで、ウイングチェアといってね、ハイバックで、ウイングみたいなデザインの椅子がいっぱいあったんですよ。ウイングチェアには回転機能がないんだけど、エッグチェアは回転するから、3、4脚が同時にくるっと回転して円になれば、それで一つの空間ができあがるんですよね。それで落ち着くことができるというわけ。

萩原 2脚目が、ハンス・J・ウェグナーのロッキングチェア「J16」です。ロッキングチェアって、あまり多くないですよね?

島崎 多くないです。僕が監修している椅子で、「ニーチェア」があるんだけど、ロッキングするタイプがあります。立ちやすいとか、そういういい面がありますね。

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左:エッグチェア/アルネ・ヤコブセン、中央:スパニッシュチェア/ボーエ・モーエンセン、右:ポエトソファ/フィン・ユール

萩原 3脚目も、同じくウェグナーの「ベアチェア」。デンマークでは老人ホームに入所するとき、お気に入りの椅子を持ち込んでいいそうなんですけど、ウェグナーはこの椅子を持ち込んだといわれています。正面に座るのはもちろん、アームに足をかけたり、あぐらをかいたり、いろんな座り方ができる椅子ですね。

4脚目は、ウェグナーの親友、ボーエ・モーエンセンの「スパニッシュチェア」ですね。座面が低いのでリラックスできて、アームが平らになっているのでお酒なんかを置けたりしますね。

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島崎 馬具の鞍をつくっている職人たちがデンマークにたくさんいたんですが、戦後、自動車の普及により彼らの仕事が減ったため、彼らに仕事が与えられるような椅子を考えたんです。そこでモーエンセンは、彼らの技術を活かすために、一枚の革で座面をつくることを思いついた。昔からスペインにこのタイプの椅子が多かったから、「スパニッシュチェア」と名づけたんです。特徴として、座っているあいだに革が伸びてきたら、ベルトの要領で締められるようになっています。ただ、モーエンセンの自宅に行ったとき、ずいぶんとたるんでいたから、奥さんのアリスに、「締めたらいいのに」と言ったら、「やってみなさいよ。できるもんじゃないわよ」と言われて、実際にやってみたけど、固くなっていて、できなかったですね(笑)。

萩原 最後の5脚目は、フィン・ユールの「ポエト・ソファ」です。2人かけですが、サイズ感が日本の家にもあうんじゃないかなあ、と思って選びました。

島崎 僕にとっては懐かしい椅子ですね。なぜかというと、フィン・ユールとはじめて会って話をしたときに腰かけたのがこの椅子だったんです。彼は「チーフテンチェア」に座っていましたね。そのとき、テーブルの上に置いてあったのが、ドイツ語で書かれた吉田鉄郎の『日本の建築』っていう本で、見たらいっぱい付箋が貼ってあるんですよ。それを広げて質問してくるんだけど、こっちも吉田鉄郎もよく知らないし、本も読んだことなくて、おどおどしちゃってね(笑)。それから、デンマーク王立芸術アカデミーの図書館で、その本を拾い読みして、また会いに行って説明しました。思い出の椅子です。

萩原 あと、北欧で冬に活躍するアイテムとして、こちらは、スウェーデンのクリッパンというブランドですが、ブランケットや、ブランケットより一回り大きいスローとか、重宝されますね。膝かけやマントのような感じで。

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― ⾃分なりのヒュッゲを探して

萩原 最後のテーマ、「⾃分なりのヒュッゲを探して」ですが、デンマークに行かないとできないのか、というと、そういうわけでもないと思います。こたつに入って談笑するのも、ヒュッゲなんじゃないか、と思います。

島崎 僕は、日本の風土で、日本人の暮らし方で、ヒュッゲを実践してほしいと思うんです。

萩原 まとめますと、これは今回だけでなく、4回のセミナーを通して言ってきたことですが、
「家のなかで何をするのが好き?」
「どのように過ごしたい?」
「映画を観る?」
「音楽を聴く?」
「読書をする?」
「家族とのディナーでの会話?」
など、自分の暮らしを見つめ直して、自分なりのヒュッゲを追求していけばいいのでは、と思います。

島崎 家をつくるというのは、自分の暮らし方、人生そのものでもあります。テレビなどが言っていることがすべてでもないし、人と違うことでも、自分が好きなことをコツコツとやっていくことも人生だと思うんですよ。居心地のいい空間、居心地のいい人との関係、そして、自分の暮らし方をつくることが、家づくりの源だと思います。

―後編はここまでです。
前編では、
「あらためて知りたい、ヒュッゲとは?」「ヒュッゲを⽣み出す光」
についてのクロストークをご覧いただけます。

クロストークセミナーvol.4 前編はこちら

島崎 信(Makoto Shimazaki)
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1932年、東京都生まれ。
56年、東京藝術大学卒業後、東横百貨店(現東急百貨店)家具装飾課入社。
58年、JETRO海外デザイン研究員として日本人ではじめてのデンマーク王立芸術アカデミー研究員となり、60年、同建築科修了。
帰国後、国内外でインテリアやプロダクトのデザイン、東急ハンズ、アイデックの企画、立ち上げにかかわるかたわら、武蔵野美術大学工芸工業デザイン科で教鞭を取る。北欧やデザインに関する企画やセミナー、著作などを数多く手がける。
武蔵野美術大学工芸工業デザイン科名誉教授。
北欧建築デザイン協会理事、日本フィンランドデザイン協会理事長、公益財団法人鼓童文化財団特別顧問、有限会社島崎信事務所代表。

萩原 健太郎(Kentaro Hagihara)
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ライター・フォトグラファー。
1972年生まれ。大阪府出身。関西学院大学卒業。
株式会社アクタス勤務、デンマーク留学などを経て2007年独立。
東京と大阪を拠点に、デザイン、インテリア、北欧、手仕事などのジャンルの執筆および講演、百貨店などの企画のプロデュースを中心に活動中。北欧、インテリア、民藝を中心に多くの著書がある。
日本文藝家協会会員。日本フィンランドデザイン協会理事。北欧建築デザイン協会(SADI)会員。

萩原健太郎オフィシャルサイト「Flight to Denmark」


※2023年4月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

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