新しい生活様式も定着し、今、改めて住まいに意識が向いている方が増えています。
より自分らしく、心地よい住まいづくりのためには、ベースとなる床材選びが大切。
床材は、使う場所や用途によって、フローリング以外にも様々な種類や素材があります。
そこで今回はインテリア誌「I'm home.」編集長の大南真理子さんに、今注目の素材や、床材に見る最近の住まいづくりの傾向についてお話を伺いました。
家での時間が増え、内装材も自分らしさにこだわる傾向に
コロナ禍を経て、家で過ごす時間が長くなると、その分気になる部分も出てきて、もっとこだわりたい、好きなものに囲まれて暮らしたいという気持ちが高まっているように感じます。
また、働き方が変わり、リモートワークという選択肢ができたことで、都心にこだわらず千葉や神奈川で多拠点生活をしたり、地方や郊外に戸建てを新築される方も増えているようです。
「I'm home.」読者の方は元々、住まいづくりの基本は押さえた上で、より自分らしさを表現したいという方が多く、リノベーションの際でも、床材から変えるフルリノベを実現される事例を多く見かけますね。
インテリアはもちろん、床や壁などの内装材も、自分の目で見て本当に気に入ったものを選びたいという意識が広がっているように感じます。
今人気の土間空間や、アウトドアリビングの床材選び
コロナ禍では、外から持ち込んだものをなるべく中に入れたくないという意識があったと思いますが、一方で、外に出かけるのではなく家に人を招いて食事やお茶を楽しむ人も増えました。
最近は、中と外の中間のような「土間空間」が改めて注目されています。
先日取材に伺ったお宅も、玄関からつながる土間スペースがあり、ベンチやテーブル、コンパクトキッチンまで設置されて、ちょっとしたリビング空間のようになっていました。
お客様が来た時に、靴を脱いで上がってもらわなくても、気軽におしゃべりをしたりお茶を飲んだりできる「半パブリック」と呼べる場所を作る方は増えているようです。
住む人にとっても、家の中で靴を履いて過ごす場所があると、"いつも"とは違う非日常感が生まれるんですよね。
そうした土間空間の床材には、アウトドアで使用するようなタイルやモルタル素材が使用されます。
室内外どちらでも使えるデザインや性能の家具も増えていますし、室内と屋外の床を同じ素材にすることで、空間がつながるように感じられます。
特に都心の住宅は敷地が限られていて、庭を広く取れなかったり、むしろ室内の方に面積を取りたいということがありますよね。そういった住まいでも、軒先などちょっとした空間に、室内と同じ素材を延ばすことによって、空間に視覚的なのびやかさが生まれるのかなと思います。
タイルや石素材は、フローリングとはまた違った使い勝手の良さもあり、同じ素材で仕上げの磨きを変えた製品を、室内と屋外で使用される方も多くいらっしゃいます。
本物の石の風合いがお好きな方ももちろんいますし、天然素材ゆえに柄目が読み切れない、メンテナンスが大変ということもあり、石目調のタイルを選ぶ方も増えています。
最近はタイルの表現力もすごく上がっていますよね。天然素材と比較すると施工もしやすいですし、メンテナンスの面でも費用面でも取り入れやすいと思います。
床材の選び方でも、どこを許容して、どこを優先するのかは住まい手の方次第ですね。
床材を変えるゾーニングで、空間を分けながら広く見せる
住まいの限られた面積をどう使うか考えた時に、素材の選び方によって、空間をつなぐことも切り替えることもできるというのは面白いなと感じます。
例えば、リビング、ダイニング、キッチンがすべてつながったワンルームの空間でも、リビングの床はフローリングで、キッチンの方はタイル貼りにすることで、何となくゾーニングができますよね。
間仕切りがなくても、「あちらはちょっと違った空間になっているな」という意識が生まれます。
空間をつなげるだけでなく、分けることもできます。それでいて目線は通るので、空間を広く感じられます。
室内に別空間をつくり出す畳の魅力
室内の別空間という意味では、畳も魅力的な建材です。
和室自体を作る方は減っているかもしれませんが、畳の部屋は実際便利ですよね。布団を敷いたら寝室に、テーブルを置いたら食卓に、という用途が限定されていないフレキシブルな場所と言えます。
ただ、全体がモダンな住まいに和室を作るのもちょっと難しい、という状況ではこうしたスクエアタイプの置き畳を取り入れるのも方法の一つではないでしょうか。
「I'm home.」で取材している中でも、畳を取り入れているお宅がありますが、デザインはイ草そのものの風合いを生かしたベーシックなものが好まれる傾向にあるようです。
ラグ×石素材など、インテリアは見た目の気持ちよさも大事
今はフローリングが増えていて、部屋全体にカーペットを敷いている家は少ないですよね。
でもカーペットはやっぱり気持ちがいいし、ラグジュアリー感や非日常感を得られるので、例えば寝室など、リラックス空間だけカーペットの部屋にするのもいいかなと思います。見た目だけでなく、足の踏み心地で素材の違いを感じられますよね。
置き型のラグなら手軽ですし、最近の傾向で言うと、トライバルラグといった民族系のデザインのラグは若い方も積極的に取り入れていて、身近な存在になってきています。
ただ、ラグ自体が必要不可欠なものではなく、予算的にも後回しになりがちですし、デザインやサイズの選び方や、敷き方が分からなくて難しいという方もいるかもしれません。
でも、ラグやカーテン、クッションなど布系のアイテムは、インテリアにはとても重要です。
例えば、石やタイルなどの硬質な床材とラグを合わせることで、すごく気持ちのいい空間になるんですよね。
素材の質感が色々あることで、インテリアに立体感が生まれます。
実際の触り心地もそうですが、私は、見た目の「気持ち良さそう」という感覚がとても大事だと思っています。
インテリアはその感覚的な部分を担っていて、機能面だけでなく、見た目が美しいということ自体が「心地いい」ということにつながると思うんです。
日本では、何か機能があれば後押しされるけど、美しいから、素敵だからといった感覚的なことで物事を選ぶ人が少ないように感じます。
でも、機能的とかメンテナンスが楽ということではなく、「きれいだから」という理由だけで選んでもいいという意識が広まれば、インテリアがずっと楽しくなると思っています。
自分で選んだもので気に入っていれば、多少使い勝手が悪くても可愛いなと思って我慢できるんですよね。それを知った上で取り入れるのであれば、そうした決断も自分の家ならではで楽しいんじゃないかなと思います。
―vol.1はここまでです。vol.2では、ミラノサローネに見るトレンドの傾向や、フローリングの可能性、ペットにやさしい床材などについてご紹介します。
- 大南 真理子(Mariko Ominami)
1985年・徳島県生まれ。
2008年・鹿児島大学工学部建築学科卒業。
'08〜'11年・イタリア留学を経て、
'12年〜・商店建築社 隔月刊『I'm home.』編集部所属。
'21年より編集長を務める。
『I'm home.』は、住まいの建築設計・インテリアデザインを中心に、暮らしにかかわるテーマを幅広く取り上げ、「住まいにおける心地良さ」を提案するライフスタイルマガジン。
日本国内、ヨーロッパを中心に独自の取材を行い、ハイエンドな住まいづくりを目指す一般読者から建築家やインテリアデザイナーまで、自分のライフスタイルにこだわりをもつ"上質"や"本物"志向の読者に向けて、情報を発信している。
インテリア誌「I'm home.」ウェブサイト
OZONEカタログライブラリー「床材展示コーナー」
リビングデザインセンターOZONE4F特設会場にて、OZONEカタログライブラリーに出展されている床材メーカー15社の製品を、2023年12月12日(火)までの期間限定で展示中です。
フローリングやタイル、ラグなど、屋内外用の様々な種類の床材に、靴を脱いで実際に触れていただけます。
床材選びのご参考にぜひご来場ください。
詳しくはこちら
※2023年10月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。