新しい生活様式も定着し、今、改めて住まいに意識が向いている方が増えています。
より自分らしく、心地よい住まいづくりのためには、ベースとなる床材選びが大切。
床材は、使う場所や用途によって、フローリング以外にも様々な種類や素材があります。
vol.2となる今回は、インテリア誌「I'm home.」編集長の大南真理子さんに、ミラノサローネに見るトレンドの傾向や、フローリングの可能性、ペットや子供にやさしい床材についてお話を伺いました。
ミラノサローネに見るインテリアのトレンドカラー
今、トレンドの一つとして挙げられるのは、皆さんがよく取り入れているベージュトーンやグレートーン。床材も同様で、ベージュやグレーのグラデーションの範囲の色を選ばれている方が多いですね。
フローリングの木材でも、 かつてはウォールナットなど濃い色のものが流行っていましたが、今は明るくナチュラルな色味のオーク材を取り入れる方が圧倒的に多いです。
上品な赤みのある色味が美しいチーク材も、貴重な木材のため価格が高騰していますが、やはり人気があります。
今年訪れた、イタリアの国際家具見本市「ミラノサローネ」で紹介されている家具やインテリアアイテムなども、やはり発色がいいというより、どちらかというとナチュラルなトーンのものが多かった印象です。
土や自然に近いアースカラーといった色味もトレンドで、インテリアにもその流れが来ています。
グレーは実際使いやすいカラーですよね。
ブラックだとモード感が強くなりますが、中間色のグレーは、ハードなイメージにも、やわらかいイメージにも、どちらにも振ることができると思います。
デザインとしての合わせやすさだけでなく、例えばテラスのタイルに使っても、汚れが目立ちにくく、機能面でも使いやすいです。
フローリングのトレンドとこれからの可能性
フローリングは、素材の違いだけでなく、貼り方やサイズによって、デザイン性が変わってきます。
どの幅や長さで、どう貼るかということが、インテリアの観点から言うととても大切です。
「I'm home.」では、幅の広いフローリングをおすすめすることが多いです。
部屋の広さや製品にもよりますが、細幅だと実の部分が視覚的にちょっとうるさい印象になってしまいます。
そこで、できるだけ大きく面を見せることで、ラグジュアリーな雰囲気を演出できます。
フローリングの中でも、床材をV字になるように並べて貼り付けていくヘリンボーンの柄は、「I'm home.」読者の方に人気です。
ただいかんせん、ヘリンボーンは張りに手間がかかり、職人さんの作業量が増えるため、予算的にもちょっと難しいかなという方もいると思います。
でも、探してみると、メーカーさんによっては、パネルで形を作って入れていく仕組みにして、コストを抑えているところもあるんですよね。
予算だけで難しいと思わずに、どこかを譲ることで、理想の住まいを実現する可能性が高まると思います。
フローリングは、機能面はどんどん向上していますが、形やデザインとしてそんなに発展するものではなく、新しいデザインはなかなか生まれないんです。
その中で、イタリアの「リストーネジョルダーノ」というブランドなどは、新しいフローリングのデザインを提案しています。
ヘリンボーンでも矩形ではなく円を取り入れたパーツ形状だったり、不規則な台形を組み合わせていたり。
床を背景として捉えるか、インテリアの一部と捉えるかによって随分違うんだなと思います。
フローリングの中でまだこんな風に進化できるというのは、さすがイタリアですよね。
イタリアやフランスの家では、石やタイルの床材もありますが、レジデンスではフローリングも多い印象です。
靴のまま上がるので、すごくハードに使い込まれて、それがまた味になっています。
日本は、水にしろ木にしろ、資源が豊富ですが、海外はそれほど資源がない国もたくさんあるので、1つのものをいかに長く使えるかという観点で、サステナブルの原点になるようなもの選びを古くから行っているのは興味深いなと思います。
ペットや子供にやさしい床材で、住む人みんなに心地よく
ペットを飼われている方や、小さいお子さまがいるご家庭は、床材選びにメンテナンスのしやすさを重視されています。
特に、犬は一般的なフローリングではすべってしまい、足腰に負担がかかるので、すべりにくい床材を取り入れる方が多いですね。
自分たちが、誰とどんな風に暮らしていて、何を優先して過ごしていくか、それぞれの家庭にとって心地よい住まいを考えていくことが大切だと思います。
これからの暮らしと、わが家にとっての心地よい床材を考える
今、皆さんが住まいに望まれるのは、居場所がいくつもあることではないかと感じます。
家で仕事をする人も多くなっているので、オンとオフを切り替える意味でも、仕事をするのはここ、ちょっとお酒を飲むならここ、みんなでワイワイするならここ、といったように1つの家の中で色々なシーンをつくれるのはいいですよね。
最初にお話しした土間空間やアウトドアリビングなどは、床材の違いで印象を変えることはもちろん、靴を履いたり脱いだりする行為によって、非日常を感じる効果も生まれます。
「愛着のある家ってどんな家ですか」と聞かれることがあるのですが、結局条件をつけられないというか、「気に入ったもの」は他人からの評価ではなく、自分の軸で考えることなので、「こうすれば愛着がある家になりますよ」と条件を挙げるのは難しい。
例えば、無垢のフローリングは比較的お手入れが必要となりますが、気に入った方にとっては苦にならないし、シミがついても「それもまた味になって良いかな」とおっしゃいます。
石の床材は、硬さや冷たさが気になる一面もありますが、普段の生活では1日中床に立っていることは少ないと思うので、デザインを優先するのも良いでしょう。石材の質感や美しさも魅力的ですから。
まず自分がどういう風に暮らしているか、どこにいる時間が多いか、どうすれば心地よくなるかを、家づくりやリノベーションで床材を選ぶ前にしっかり考え、暮らしに向き合うことが大切です。
今は情報が多い時代で、SNS等でデザインの断片的な情報はすごくたくさん見つかります。
でもそれはあくまで他の家のこと。
集めた情報をそのまま設計士に見せるのではなく、自分にとって心地よいかどうか、自分ならここでこんな風に過ごしたいかをかみ砕いてみる必要があると思います。
床材は、住まいの中でも手軽に変えられるものではないので、経年変化を楽しめるような、長く付き合っていける素材を選んでほしいということは「I'm home.」でも強く伝えています。
将来も見据えて、自分にとって、わが家にとって心地よい暮らしのための床材を選んでいただきたいですね。
―vol.2はここまでです。vol.1では、今注目の素材や、床材に見る最近の住まいづくりの傾向などについてご紹介します。
- 大南 真理子(Mariko Ominami)
1985年・徳島県生まれ。
2008年・鹿児島大学工学部建築学科卒業。
'08〜'11年・イタリア留学を経て、
'12年〜・商店建築社 隔月刊『I'm home.』編集部所属。
'21年より編集長を務める。
『I'm home.』は、住まいの建築設計・インテリアデザインを中心に、暮らしにかかわるテーマを幅広く取り上げ、「住まいにおける心地良さ」を提案するライフスタイルマガジン。
日本国内、ヨーロッパを中心に独自の取材を行い、ハイエンドな住まいづくりを目指す一般読者から建築家やインテリアデザイナーまで、自分のライフスタイルにこだわりをもつ"上質"や"本物"志向の読者に向けて、情報を発信している。
インテリア誌「I'm home.」ウェブサイト
「コーディネートを楽しむ 床材×インテリア」を2024年1月31日(水)まで配信決定!
2023年に開催したイベント「暮らしから考える-床材コレクション-」の連動企画として、インテリア誌「I'm home.」編集長:大南 真理子さんと、OZONEインテリアデザイナーによるトークセミナーを期間限定配信にてお届け。
住まいにおける床材の重要性を語るほか、インテリア面と快適性の両立や、カラーや素材から見る最新のインテリア傾向もお話しします。
※2023年11月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。