ほとんどの時間を家族と一緒に過ごす幼少期から、成長して、いずれ巣立って行くときまで、住まいの中で子ども部屋の役割は変化していきます。
そこで今回は「fantastic design 一級建築士事務所」代表の赤松純子さんに、ライフステージに合わせた子ども部屋づくりについてお聞きしました。
最近の子ども部屋の傾向から、柔軟な空間づくりのポイント、スタディスペースのつくり方まで、事例を交えてご紹介します。
― 子ども部屋はよりコンパクトに、リビングはより広く
最近の子ども部屋の傾向としてまず、どんどんコンパクトになっているということが挙げられます。
住宅コストが高騰していますし、都内はそもそも面積が取れないため、できる限りLDKに面積を割きたいというご要望が多いです。
LDKに20畳ほど取りつつ、子ども部屋に6畳取ってしまうと、面積がオーバーしてしまうので、子ども部屋は必要最低限でいいのではないかという考え方になっていますね。
お子さまの部屋をつくるうえで重要なことは、面積ではなく、1人になれる居場所があること。
極端なことを言えば、ドラえもんの部屋のように押し入れ1畳でも良いんです。成長する過程で、精神的な自立を促すために、たとえ狭くても自分にとっての城があることが大切だと考えます。
最近はスタディスペースがリビングなど外に出てきている傾向もあり、子ども部屋に置くものも少なくなっています。
あまり子ども部屋を広くして居心地よくすると、部屋から出て来なくなってしまう心配もありますし、家族がみんなで過ごすリビングを大きくしたいというご要望は多いですね。
― 室名をつけず、役割を変化させる部屋づくり
コンパクトな子ども部屋とはいえ、3畳ほどの広さではやはり圧迫感があるので、お子さまが小さい時期は部屋をつなげ、広いスペースとして使用するプランをご提案しています。
お子さまが個室を使う時期はすごく短いですよね。その短い時期のために、かっちりつくるのはもったいないと思うんです。
私はリフォームのお仕事も多く、子育てを終えた50代以上の方の住まいも手がけていますが、子ども部屋が物置になっていることが本当に多いです。
設計者として、自分たちがつくったものが使われなくなるのはさみしいことですし、子どもがいる約10年間のためだけの間取りをつくってしまったという責任も感じます。
では、先を見据え、長いライフステージに対応するためにはどうするかというと、1つは部屋をつなげたり仕切ったり、柔軟に使えるようにするということ。
あともう1つ、私は「子ども部屋」と呼ばずに「個室1、2、3」という言葉を最近は使うようにしています。
名前をつけることは、思っている以上に大きな意味を持ちます。
「子ども部屋」と名づけてしまうと、今ほとんど物置のようになっていても、「あそこは息子・娘の部屋なので動かせない」という考えが残り、用途が限定されてしまいます。
そこで事例を挙げてご理解いただきながら、ライフステージに合わせてスイッチしていく部屋づくりをご提案しています。
例えば、ご夫婦とお子さま2人の4人家族の住まいでしたら、将来的に個室を3室つくる想定で広いスペースを設けます。
フェーズ1として、子どもが小さい時期は、1部屋だけ区切り、残りの2部屋をつなげて広く使います。広い方の部屋は家族4人が川の字になって寝る寝室として、残りの1部屋は遊び場として使うご提案をします。
フェーズ2として、上のお子さまが個室がほしい年頃になったら、遊び場だった部屋を自室にして、下のお子さまはまだ小さいので、そのまま父母と一緒に寝ます。
フェーズ3として、下のお子さまにも個室が必要になったら、もう1部屋を区切り、残りの1部屋をご夫婦の寝室にします。
そして子どもたちが巣立ったら、2部屋をご夫妻それぞれの趣味部屋にしたり、各々の寝室にして1部屋を客間として使うこともできますよね。
― 収納も、部屋の用途に合わせて可変性を重視
部屋の用途が変化していくことを考えると、収納も可変性を意識することが大切です。
固定の収納をつくり過ぎない方が後で間取りを変えやすくなります。
お子さまが小さい時は、リビングの延長上に絵本やおもちゃのスペースを設けることで、例えば電車のレールなども敷きっぱなしにしておけるので便利です。
お子さまが大きくなったらそこはご両親の趣味のスペースになるかもしれないし、ライフステージによって物の置き場所も変化していくと思います。
そうした意味で、ファミリークローゼットをつくることも有効です。元々、ファミリークローゼットは家事動線の利便性からトレンドになっていますが、子ども部屋の可変性を考えた時にもおすすめ。
家族の洋服をはじめ、雑多なものを1か所に納めることで、収納にとらわれず部屋を間仕切りできます。
ファミリークローゼットは面積が大きくなりがちなので、私は通り抜けできる廊下兼収納スペースという形でご提案することが多いです。
収納が日常通る動線上にあると、取り出しやすく片づけやすいので、散らかりにくいというメリットもありますね。
― 家族の気配が感じられるスタディスペース
私が手がける住まいでは、リビングや家族の共有部分にスタディスペースをつくる間取りがとても増えています。
スタディスペースのつくり方についても、お子さまの年代に合わせて変わると思います。
お子さまがまだ小さい時は、正面から見守れるように、キッチン前にカウンターをつくってスタディスペース代わりにすることが多いですね。
もう少し大きいお子さまだと、つねに見ていなくても大丈夫ということで、ダイニングルームの一角やキッチンに背を向ける場所に配置します。
例えばダイニングテーブルのすぐ後ろにスペースがあると、テーブルにお絵描きや勉強の道具を広げていても、食事の時間になったらそのまま後ろに移動させて、またすぐ再開できます。
食事の時に中断せずに作業できるように、ダイニングテーブルと別にスタディスペースをつくりたいというご要望は多いですね。
お子さまが小学校高学年になると、壁際を向いた方が集中できるということで、家族がいるスペースからちょっと背を向ける感じでつくります。
ただ壁に向いていると、圧迫感はあるので、目の前に窓を切って、勉強に疲れたら目を開けて、ちょっと緑が見えるようにするといった目線の工夫をするということもポイントですね。
子ども部屋やスタディスペースのつくり方として、やはり「可変性」はキーワードになると感じます。
子どもの~と決めつけないで、お子さまの成長とご家族のライフステージの変化に合わせて、どんどん変えていくことが大切です。
ただ、家づくりを始める一般の方にとって、今の自分たちの暮らしからそこまで想像するのは困難なところもあると思います。
半歩先を見据えて、ご家族に寄り添いながら、未来に向けて暮らしやすい提言をしていくことが私たちの仕事なのかなと感じています。
赤松 純子(Junko Akamatsu)
建築家・インテリアデザイナー。
横浜国立大学・大学院建設学科卒業。
伊東豊雄建築設計事務所などを経て、2001年「ファンタスティック デザイン 一級建築士事務所」設立。
2006~2021年武蔵野大学にて非常勤講師を務め、2013年よりOZONEでは提携インテリアデザイナーとして活躍。
建築家の視点から、マンションや戸建ての内装選定からインテリアコーディネートまで、空間のトータルデザインを得意としている。
OZONEの家づくりサポートサービス「OZONE家design」
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【今回ご紹介したOZONE家designの事例はこちら】
・家族みんなが幸せ二世帯住宅
・子育てしながら趣味も仕事も楽しめる家
※2024年5月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。