これからの家具選びは、デザインや機能だけでなく、未来の暮らしや環境のことも考えることが大切です。
環境に配慮した製品を購入することはもちろん、ライフスタイルに合わなくなったものを廃棄するのではなく、今あるものを丁寧に使い続けることもサステナブルな行動のひとつ。
リペア(修理・修繕)はファッションなどだけでなく、住まいや家具のなかでも誰もが取り組んでいけます。
そこで今回は、確かな品質のものづくりとリペアに取り組むOZONEのショールームをご紹介します。
vol.2では、Kitani 東京ショールームの蓬莱誠司さんにお話を伺いましたので、ぜひご覧ください。
― かつての職人の思いを受け継ぐ、天然素材へのこだわり
キタニの製品は、椅子のクッション材にできる限り天然素材を使うことにこだわっています。
デンマーク家具のリペアを行っていると、品質のいい家具、中でもウレタンフォームがまだ世に出ていない古い時代の家具には、麻の繊維や、獣毛と呼ばれる馬や豚の毛が使われています。
天然素材は扱いが難しく、製作に手間がかかりますが、長持ちするため、かつての職人たちが、永く使える家具づくりを考えて使用しているのです。
リペアでこうした家具に出会い、私たちも、時代が変わったとしても同じ考え方でものづくりをしようと考えています。
麻の繊維は、使っていくとなじんでくるので、使えば使うほど座り心地が良くなります。
30~40年前にデンマークで作られた椅子をリペアする際も、使う人の身体に合わせてクッションが潰れた状態になっているので、中の素材を出して、空気を入れて膨らませてから、再び中へ戻すという作業を行います。
表張りは新たに張り変える必要がありますが、天然素材のクッション材は入れ替えずに使い続けられるのが良いところ。ウレタンより通気性もよく、環境にもやさしいため、今の時代に合った素材と言えます。
ただ、天然素材を扱うためには、椅子職人の技術も必要です。ウレタンフォームの場合は1枚のシートをのせる作業ですが、天然素材は細かい繊維を椅子の形に合わせて敷いていきます。
そのため天然素材を実際に入れる「椅子張り」の国家検定試験もあります。
1級は長年の実務経験も必要で、難しい試験ですが、キタニのスタッフたちは毎日実際に作業をして慣れていることもあり、現在半分以上のスタッフが取得しています。そういう所は、ちょっと他のメーカーさんとは違うかもしれませんね。
フィン・ユールや、ハンス・J・ウェグナーといったミッドセンチュリーの北欧家具は今も人気で、高額で売買されています。
当時の家具は、今では手に入りづらいチーク、ローズ、マホガニーなどの上質な素材でつくられていて、メンテナンスすればこの先も40~50年使えるので、使い続けていく価値がありますよね。
さまざまな復刻版も出ていますが、デザインが同じでも使っている素材はメーカーによって違い、それぞれが培ってきたノウハウや技術が表れるため、価値を判断するのは難しいところです。
キタニが作る家具も、数十年後に価値あるものを残していかなければという思いで、素材からこだわりを持ってものづくりを続けています。
― キタニの技術と素材のこだわりを集約した最高峰のチェア
こちらのウィングバックチェアは、背や座のクッション構造はコイルバネや干し草などで構成され、フレームも無垢材でつくられています。
デザインだけでなく、中身もクラシカルにこだわった、キタニの中でも最高峰の椅子といえます。
このようなヨーロッパのクラシックな椅子にはボタンがついていることが多いですが、なぜかご存じですか?
ウレタンが出る前の1900年代半ばまで、椅子のクッション材は、麻の繊維をベースにして、座面に近い部分には弾力のある馬の毛を散りばめて、糸で縛っているのですが、背もたれなどは重力で落ちてくるので、ボタンで抑えているんです。くるみボタンはただのデザインではなく、役割があるんですね。
そのため、本物の天然素材を使った昔の椅子はボタンの数が多いですが、ウレタンでつくられた最近の椅子のボタンはただの飾りのため2個位と少ないのが特徴です。
ウレタンフォームの登場によって、家具のデザインは変わりました。
天然素材の場合は厚みが必要でしたが、ウレタンは薄くても弾力が出せるので薄くすることができるようになり、ミッドセンチュリーのデザインも、クラシカルからモダンに変わってきました。イームズのチェアは典型的ですよね。
天然素材は手間もコストもかかるので、修理で使用することはあっても現在製品として出しているのは、日本ではキタニだけかもしれません。
実際そうした家具はかなり高額になりますが、ヨーロッパでは家具は一生ものどころか、次の世代まで受け継ぐもの、という考え方があります。
新築をどんどん建てる文化ではないですし、家具をメンテナンスして使い続けるのはごく当たり前のこと。
椅子の張替えも日常的で、家具の修理店や張り地の店、中古家具店も多くあります。
こうしたリペアの文化が古くから根付いているため、張替え用の椅子の張地も豊富に揃っていて、毎年新しいデザインが増えています。
ヨーロッパのファブリックは品質も優れていて、古くなったからというよりも、自分好みのデザインに張り替える方も多いそう。
日本の家具メーカーは、丁寧に作られた家具に安価なファブリックを使い、家具がよく見えずもったいないと感じることもあります。
いいファブリックを使った家具は、やはり素敵に見えますし、大切にして永く使いたくなりますよね。
― 時代の流れとともに、張地に機能的なファブリックを選ぶ傾向に
キタニでは、自社で扱う家具はもちろん、自社以外の製品もリペアを受け付けています。
キタニ以外の製品の場合は縫製をほどいて型起こしから行うため、お時間はかかりますができる限り対応しています。
おかげさまでリペアのオーダーは多く、今日だけでもソファ修理の依頼を4件いただきました。
中には、約20年前にOZONEの家具店で購入したヴィンテージソファの張替えの依頼もあります。とても質のいい家具で、中のクッションはフェザーなどの天然素材だったので、交換ではなく追加というかたちで、この先も永く使い続けられるようにこだわりました。
最近の傾向としては、革張りから、機能的なファブリックに張り替える方が増えています。
かつては革が8割、布が2割でしたが、今は逆で、布を選ぶ方が約8割。理由としては、機能がついている安心感、価格が革より安いこと、色・柄が選べることが大きいと思います。
特にダイニングチェアは汚れに強い機能は必須ですし、ペットを飼っているお客様が、爪が引っかかりにくいなどの機能を求めて選ぶ方も多いですね。
例えば、スペインのファブリックメーカーが出している「アクアクリーン」は、日本にも数年前から入ってきていて、テクスチャ―やデザインが豊富。ほかにも、イギリスの「ファイバーガード」など、まだあまり知られていない製品も積極的に取り入れてお客様にご提案しています。
色やデザインもお好みから選べ、張地が変わるだけで部屋全体の雰囲気も変わりますよね。
トレンドに敏感なお客様は、革がだめになる前に、張地を変えるという方もいます。
家具は買い替えるのではなく、張地だけ変えて永く使い続けるという意識が広まると、今後のインテリアコーディネートの考え方も変わっていくかもしれませんね。
― ものを大切に、豊かに暮らすことが、結果としてサステナブルに
家具を修理して使い続けるということは、元の家具がしっかりしているからこそできることです。
私たちが、新たな製品を開発するときも、張替えやメンテナンスを考えて設計をしていますし、そうでなければ開発する意味はないと思っています。
とはいえ、リペアとなると家具を送る際に送料がかかったり、長期間預ける必要があるのがネック。
そこで、リペアをもっと身近にするために開発したのが「マリリンアームチェア」です。
座面を簡単に交換できる設計になっていて、パーツのみ購入できるので、リペアの際はお客様自身でパーツ交換ができます。一脚10~15分程度で完成するので、傷んできたり、気分を変えたいときなど気軽に交換していただけたらと思います。
いい家具を選ぶということは、毎日を大事に生活することにつながります。
デンマークは「世界一幸せな国」と呼ばれていて、それは生活保障や教育などが充実していることもありますが、インテリアを重要視する国民性が深く関わっているとも言われています。
いい家具を選んで、大切に永く使い続けることが、「幸せ」で「豊か」な暮らしなのではないでしょうか。
「地球にやさしく」「サステナブルな選択を」と言われますが、私たちが今あるものを大切にして、豊かに暮らしていくことで、自然に地球が守られていく。
サステナブルな生活をすることが目的なのではなく、それは豊かな暮らしの結果として後からついてくるものなのではないかと思っています。
Kitani 東京ショールーム
館内ショールーム
飛騨高山に工房を構え、北欧名作家具を作り続けるキタニ。
「ものづくり」から培った「心と技」を活かし、東京ショールームでは北欧のヘリテッジインテリアに日本独自のスタイリングと感性を調和させた上質な時間と空間を再現。一軒の家を想定した空間は、豊かさの本質から人生の姿勢を感じて頂ける特別な場所です。
家具の他にもラグ、照明、小物など日々の暮らしと住まう人の心を豊かにする多彩なアイテムをご紹介しています。
※2024年11月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。