リビングデザインセンターOZONE 「わたしのサス活-未来のためにできること-」に連動し、私たち生活者の誰もが身近なサステナブルな活動へ一歩踏み出すため、あるいは、あらためて「暮らしにとっての真の豊かさ」とは何かを考えるきっかけとして、特別対談を行いました。

気候変動の危機に対応し、若者たちが、サステナブルな社会の構築を目指すプラットフォームとして設立された「一般社団法人SWiTCH」の代表理事:佐座マナ氏と、ライフスタイルブランド「ワイス・ワイス」を1996年に創業し、合法木材、地域材などによるサステナブルな木材調達「フェアウッド」を業界に先駆けて2008年に開始・推進してきた佐藤岳利氏のお二人を迎え、私たちの生活の中で、どんなことが「サス活」に繋がり、その中で「デザイン」はどのような役割を担うべきなのかを伺います。

佐座 槙苗(さざ まな)(一般社団法人SWiTCH 代表理事)

佐座 槙苗(さざ まな)

1995年生まれ。カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学卒業。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン大学院 サステナブル開発専攻卒業。2020年、 COP26 日本ユース代表。Mock COP26グローバルコーディネーターとして140カ国の若者に呼びかけ、COP26で環境教育サミットを開催、国際的に注目を浴びる。2021年、一般社団法人SWiTCHを設立。2022年ストックホルム+50日本若者代表として参加。2023年 、Forbes JAPAN 30 UNDER 30に選出される。COP28に日本政府団として参加。

一般社団法人SWiTCH
一般社団法人SWiTCHは、地球1つで暮らしていくために、若者が中心となり、世代・業界・国境を越えて共創するプラットフォームです。2030年までに持続可能な開発を目指す「SDGs」と、2050年までに温室効果ガス削減を目指す「パリ協定」を成功させるために、大学・企業・自治体など多くの方々と様々な取り組みを行っています。

一般社団法人SWiTCH

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佐藤 岳利(さとう たけとし)(株式会社佐藤岳利事務所)

佐藤 岳利(さとう たけとし)

1964年 群馬県生まれ。1988年 青山学院大学経済学部卒業。1988年-1997年 乃村工藝社海外事業部勤務を経て、同社社内ベンチャー制度を活用し、株式会社ワイス・ワイスを創業。豊かな暮らしをテーマとするライフスタイルブランド事業を展開。経済産業省ソーシャルプロダクトアワード特別賞、林野庁ウッドデザイン賞審査委員長賞など受賞多数。2024年1月、「新しい豊かな未来」を創造する株式会社佐藤岳利事務所を設立。

フェアウッド研究部会-共催、NPO森づくりフォーラム理事、たたらの里プロジェクト推進協議会理事、一般社団法人日本ウッドデザイン協会ビジネスマッチングコーディネーター、林野庁ウッドチェンジネットワーク委員、公益社団法人国際観光施設協会委員 等。

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前編ではお二人の取り組みとともに、国内外の「サステナブル」への姿勢・現状について伺います。

「日本は世界のサステナブルの波に乗り遅れている」

まずは、佐座さんが代表理事を務める「一般社団法人SWiTCH」の活動について教えてください。

佐座 ありがとうございます。「SWiTCH」は非営利の一般社団法人として主に環境教育を軸に活動しています。
若者が世代や業界を超えて大人世代と共創するためのプラットフォームとなることを目指し、日本が世界のサステナブルの波に乗り遅れてしまっている「三つの原因」をメッセージとして発信し、その是正を提言しています。

まず一つが、気候変動に関する決議の場に、そのインパクトを一番受ける若い世代が参加できていないことです。日本の国会議員の平均年齢は60歳に近く、国際的に見て高齢です。気候変動の世の中を生きていく若い世代が求める社会活動や経済の仕組みを考えてくださったとしても、残念ながらそこには認知のギャップが存在しています。私たちは、未来を左右する決議の場にどうすればもっと若い人たちが参加でき、社会変革にどうつなげるのかを、活動の軸として常に考えています。

ー二つ目は……?

佐座 二つ目は、日本に入ってくるサステナブルに関する情報が圧倒的に少なく、関心も優先度も低いという問題です。そこには言語の課題が関わっています。日本は英語を勉強している人口は多いものの、仕事や議論のレベルで英語を使いこなせる人材が、とても少ないのが現状です。

サステナビリティに関する国際的な潮流や最新のテクノロジーに関するトレンドをキャッチするために、また、その指標作りや決議の場に参加するために、言語に対する認識を変えていかなければならないと思います。

家庭の食卓で気候変動の話題がどれくらい出るか、という調査で、欧米では「毎日」、日本では「週一回程度」というデータもあり、「環境への意識」に大きな差があることが明らかです。今後は、環境意識の差が、そのまま経済的な格差となってしまうと言われています。日本らしさを大切にしつつ、新しい言語感覚、新しい経済の仕組みに向き合っていくことが、大切だと考えています。

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—では、三つ目の原因はなんでしょうか?

佐座 三つ目は、世界との連携が充分にとれていないことですね。現在、環境面の指標作りは、ヨーロッパが中心になっています。日本は地理的に遠いという不利な状況にありますし、その指標作りの場に参加していなければ、国際的な存在感も小さくなってしまいます。日本は今、中国、アメリカ、インド、ロシアに次ぐCO2排出量世界第5位で、裏を返せば、世界中から「積極的に状況を変えていく責任があるよね?」という目で見られているということに他なりません。

佐藤 日本は昨年も「化石賞」を受賞しました。

佐座 そうなんです。COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)の期間中に発表される、気候変動対策に後ろ向きな行動を取った国に与えられる不名誉な「化石賞(Fossil of the Day)」を、日本は4回連続で受賞しています。
でもこれは、注目してる、応援してるよ、というメッセージでもあると思っています。
「期待しているのに、できるはずなのに、どうしてやってくれないの?」というような。そして化石賞に対する日本の反応も見られていますよね。ネガティブなことを言われてただ黙っているのか、よりオープンな姿勢を見せて、「期待以上のものを出して見返してやろう」と奮起するのかを注目されていると思います。

佐藤 「やってる感の演出」は、世界にはまるで通用しないということですよね。

佐座 本当にそうです。世界が気候危機を強く意識するきっかけになった、1997年のCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)の「京都議定書」は、日本の京都で作られましたよね。これらは、これまで佐藤さんたちの世代ががんばってきた一つの証でもあると思います。でも、そのレガシーがうまく継承されていない。これは本当にもったいないことです。そのレガシーの継承として、環境を良くするための活動や、国際的にリーダーシップをつかみ取っていく人たちが、日本から誕生することが求められているのだと思います。日本が直面している課題として、私が考えているのは、この三つですね。

世代間の分断・対立にさせないために

ありがとうございます。「SWiTCH」も、そして佐座さんご自身もそうであるように、サステナブルな問題に対して「若者こそが行動すべき理由」とは、なんでしょうか?

佐座 逆に質問させてください。世界人口に占める若年層(0~19歳)の割合って、どれくらいだと思いますか?実は4割にも上るんです。(※01)
世界の未来を左右する決議の場では若者が主軸になることのほうが、自然なことだと思っています。日本は高齢化社会が進み、高齢化に備えた社会や経済の仕組みが整いつつありますが、気候変動に対する取り組みはうまく進んでいないわけです。

私は、未来の主人公となる若者のために、お金やリソースを振り分けるべきだと考えています。世代を超えて社会を作っていくためにも、若者がどういう変革を求めているのかを具体的に示し、そのサポート体制を構築していくことも、私たちにとっての課題です。

佐座さんたち世代のこうした動き方は、佐藤さんの目にはどのように映るのでしょうか。

佐藤 私は今、自分の時間の3分の2で生活費を稼いで、3分の1は未来に投資をする、次世代のために何かをすると決めているんです。というのも、私はずっと持続可能な森林管理、木材調達、木製品製造を目指す「フェアウッド(※02)を常識に!」をスローガンに活動をしてきたのですが、残念ながら素直にアクションを起こしてくれる大人は、あまり多くはなかったんです。やはり大人は大人で、簡単には変えられない何かしらの事情を抱えてしまっているもので、頭ではわかっているのですが、具体的にアクションするとなると、できない、変われない理由が次々出てきてしまうんです。
私は20年ぐらいそういう体験をしてきて、これは時間がかかりすぎるし、結局変われないんじゃないか……と思い始めていました。

一方で、小中学校や大学での出張授業などで、子どもたちや若者と話していると、彼らは実に純粋にこのままでは良くない、何か自分にできることはないか……と、すごく一生懸命に考えてくれます。こうした純粋さやしがらみの無さこそ、変革の活動の原動力になるのではないかなと、とても期待していますし、私たちの世代は、それを全力で支えるべきだろうなと思っています。
佐座さんを含め若者たちの中から、しっかりとしたビジョンを持って具体的にアクションを起こす方たちが大勢出てきているので、OZONEがサステナブルの特集を組むのならば、ぜひ彼らと向き合ってみてほしいと思いました。

佐座 おそらく佐藤さんのように、若者の活動を応援してくださる大人の方は、時代の流れを先取りし、早くから環境への関心と危機感を持って、奮闘してこられた方たちだと思います。そして、積み重ねてきた取り組みを私たちの世代が受け継ぐタイミングが来ているのです。
若者たちが求め、自然と共存する社会の仕組みは、若者だけでゼロから作り上げることは不可能です。
先輩方が長年築き上げてきた功績と若者のアイデアをつなぎあわせることで、意外にも早い展開ができるのではないかと思っています。先輩方が本当はもっとこうしたいと思っていたことを、若者の活動の上に重ね合わせていくチームワークを作り上げたいです。

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SWiTCHによる小学校への出前授業。第1回「地球1つで暮らせるように ワークショップ」(2023年10月3日 渋谷区立臨川小学校4年生)

—お二人とも環境教育活動で子どもたちと触れ合っていると思いますが、大人たち、若者たちのさらに下の「子どもたち」の世代との接し方や思いなどについても、お聞かせください。

佐座 私たちは毎月、小学校に出張授業に行っています。小学生はもうちゃんとSDGsを理解しているし、環境についての情報もたくさん吸収しています。それは素晴らしいことなのですが、どうすればそれを行動に移せるのか、どうすればリーダーシップを活かしてまわりを巻き込んでいけるかについて、体験を通して伝えることが大きな課題だと思っています。
やる気になれば、学校生活の中で100%脱炭素にすることも、食品ロスをゼロにすることも可能です。
子どもたちに考えさせ、実際にトライするのを、先生や学校がサポートすることが大切です。今はまだそうした仕組みが整っていないということですね。

SHIBUYA QWSにてインタビュー(2024年8月収録)
撮影/大倉英揮


※文中敬称略
※2024年10月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

(※01)World Population Dashboard
(※02)フェアウッドとは…社会的な側面からも環境的な側面からも持続可能な管理がされている森林から得られた木材を調達すること

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