リビングデザインセンターOZONEで開催の「わたしのサス活-未来のためにできること-」に連動して行われた特別対談の後編。

気候変動の危機に対応し、若者たちがサステナブルな社会の構築を目指すプラットフォームとして設立された「一般社団法人SWiTCH」の代表理事:佐座マナさんと、ライフスタイルブランド「ワイス・ワイス」を1996年に創業し、合法木材、地域材などによるサステナブルな木材調達「フェアウッド」を業界に先駆けて2008年に開始・推進してきた佐藤岳利さんのお二人にお話を伺います。
後編では、建築・デザインとサステナブルとがどのように関わり、今後どうあるべきかをお二人に伺います。

前編はこちら

「フェアウッド」が目指すデザインの本質

佐藤さんご自身がサステナビリティに資する活動に目覚めた時期や、その大切さに気づかされたきっかけのようなできごととは、何だったのでしょうか。

佐藤 以前から建築の内装や家具、インテリアの仕事をしていたのですが、2005年に耐震偽装問題が起きた影響で、許認可の審査が厳しくなった結果、市場から仕事がすごく減ってしまったんです。同時に、2008年のリーマン・ショックに向かってデフレ経済がどんどん進行していました。ひとつの仕事にたくさんの会社が群がり価格競争が激化し、よりローコストで生産のできるアジア地域に日本の会社が生産拠点を求める事態となりました。

私の会社も、価格競争力を求めて中国に進出したんですが、あまりに過剰なローコストぶりに、そのうち疑問を感じだしました。それで現地の工場長に、「この木って、どこから来てるんですか?」と尋ねると、「安いもの買いに来て何言ってるの?」と一喝されました。要するに違法伐採やそれに近い方法で入手した木材の可能性があり、触れられたくないわけです。やはり、安いものには理由があるんですよね。

だんだんそういう事情が分かってきたので、環境NGOと連絡を取り合って勉強を重ねていくうちに、日本が世界でも有数の違法伐採木材の輸入消費大国であることや、アメリカにもヨーロッパにもオーストラリアにも罰則や罰金のある違法伐採を取締る厳格な法律があるのに、日本の法律はとても緩く、違法伐採木材が平然と輸入されていることを知り、唖然としてしまったんです。私たちの世代は、日本は環境先進国だとずっと聞かされてきましたから。

いつの間にどうしてこんなことになっちゃったんだろう……って、すごくショックを受けたんです。国内においては、せっかくFSCの認証(※01)を得ている木材なのに、次々とチップにされていく悲しい現実なども目の当たりにしました。

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佐藤さんが国内外の林業地をめぐる旅で直面した木材流通の現実の例。
岩手県のとある森林では、近隣の加工工場で、FSC認証木材が次々とチップにされている状態だったという。

長いこと家具や内装の仕事をしてきたのにも関わらず、そういう木材の課題や問題に無知であった自分を恥じました。
そこで会社をフェアウッド100%の、今で言うサステナブル調達に切り替えよう、そして自らが社会を変えていく立場を取ろうと決めました。気づいてしまったら、もう後戻りはできないですよね。

そうした活動が、「フェアウッド=社会的、そして環境的な側面からも持続可能な管理がされている森林から得られた木材調達」として、多くの企業や林業関係者に広まっていったわけですね。

佐藤 2002年、国際環境NGO FoE Japanと一般財団法人 地球・人間環境フォーラムが木材調達の際の選定基準を示し、フェアウッド調達のための支援や情報発信を「フェアウッド・キャンペーン」として展開したのが始まりです。
2008年、彼らのサポートを受け、当時私が経営していた会社はフェアウッド調達100%を宣言しました。
そして、現在に至るまで「フェアウッド研究部会」の共同主催者として行動を共にしています。

「デザインされた木の製品」というと、スタイリッシュで、おしゃれで、環境に優しいイメージで……と、良い面に注目が集まりますが、本当はそうした話の前に、「その木がどこからやってきたのか、どんな人が伐って運んできたのか、伐採された森林はどうなっているのか?」という前段のストーリーが必ずあるんです。そこから始まる流れを含んで「デザイン」しなければならないはずなのですが、まだまだ多くの木製品は、残念ながらそうした意味でのデザインができていません。

デザインの領域は、モノの色や形や機能だけじゃなくて、社会や環境にもインパクトを与えるような、もっと大きくて広いものであるべきです。そういうものこそが、今求められている、「本当のデザイン」の姿だと思います。

佐座 あらゆる面で、「コンセプトのリデザイン」が必要なのだと思います。「デザイン」の既成概念を変えるということですね。私の妹は造形アーティストをしていますが、彼女がロンドン芸術大学に留学して、最初に作品の素材を調達する場所として勧められたのが、大学内のゴミを集める巨大なコンテナだったそうです。

コンテナの中は、案外使えそうなものが多かったり、新品同様のものがあったりと、創作意欲をかきたてられるものがぞくぞく出てくるんだそうです。誰かがいらないと感じて捨てた物も、別の人にとっては拾いたくなるほど魅力的なわけです。新品の素材を購入してゼロから物を作るのが当たり前、という「アート」の既成概念を壊す……。これもリデザインですよね。

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佐座さんの妹:LEMIE.(佐座レミ)さんによる廃漁網を再生した繊維で作られたインスタレーションアート作品「From The OCEAN」。
SWiTCH主催の「渋谷で感じる海。プロジェクト」の一環として、渋谷駅東口地下広場に展示された
(展示期間:2024年8月17日~ 31日)。

建築やデザインが意識すべきサステナビリティ

世界の総廃棄物量の約40%が、建設や解体に伴う建築関連廃棄物だという衝撃的な数字もありますが、こうした事実もなかなか世の中には知られていないようですが……

佐藤 それこそ佐座さんが最初に言われた、「情報が圧倒的に少なく、関心も優先度も低い」という問題点の現れですよね。建築業界ももちろん、この数字を知っているはずなんですが、やはり大人たちはしがらみが強くてなかなか具体的に動けないわけです。佐座さんの妹さんのように、新しいものをゼロから作るとゴミが増えるけど、ゴミを使って新しいものを作ることができればゴミは減りますよね。
極端に言えば、今ある建築物が使える限りは、新しい物はもう作らなくてもいいんじゃないの? と考えることだってできるはずです。作らない代わりにリノベーションするとか、アップサイクルするとか、建築業界自体が新しいビジネスの形に移っていく……。そういう時代が求められているのではないでしょうか?

佐座 でもネガティブなことばかりではありません。佐藤さんが「日本は環境先進国だったはずなのに……」という話をされていましたが、リサイクル技術に関しては、日本は今もなお、世界トップクラスです。

佐藤 そうですね。日本の建築廃棄物のリサイクル率は、実に97%という非常に高い水準を達成しています。それを実現する世界最高峰の技術力があるということですね。

佐座 本当にすごいことですね。その一方で、スクラップ&ビルドをやめられずに、本当に必要かどうか疑わしい建築物がつぎつぎ建ってしまう。廃棄物の再利用という、サプライチェーンの下流の部分では素晴らしい成果が出ているのに、「そもそも必要ですか?」を問う、最上流の視点が進化していない印象です。

「SWiTCH」の活動方針の中にも、「テクノロジー&デザイン」という項目がしっかり位置づけられていますが、広範囲にわたる「SWiTCH」の活動のなかで、特に「デザイン」という領域を大切に思われているのは何故でしょうか?

佐座 一つ目としては、ビジュアルの大切さですね。環境に優しい商品を使いたいと思っても、これが家にあったらと想像するとデザイン面で購入する気になれなかったり。これは本当にもったいないことなんですよ。そこをカバーできるのがデザインの力です。かわいいし、手元に置きたいし、長く使い続けたい……そう思わせるような見た目や機能をしっかりデザインして、使いたいと思わせるプロダクトに仕上げることは、とても大切だと考えています。

二つ目は、先ほどの佐藤さんのお話しにもつながりますが、やはりデザインの「範囲」をどう考えるべきなのか、ですね。私たちの身の回りのもの、服も、コンピューターも、家具も、全て誰かがデザインしてくれていますが、そのデザイナーが、マテリアルや機能を追及するのと同じように、その素材をどこから調達したものかトレーサビリティ(透明性)に注目することが大切です。

「材料の調達」が環境に配慮しておこなわれていれば、「廃棄・再利用」というフェーズまで持続可能であり続けられます。その潮流全体を考えることを「デザイン」と呼ぶことが当たり前となるように、デザインという仕事の範囲をリデザインする必要があると思っています。

佐藤 私はデザインとは「想像と創造」、つまりイマジネーションの想像と、クリエーションの創造という二つの「ソウゾウ」を両輪にして走っていくべきものと考えています。モノの色・形・機能だけの創造ではなく、その素材が生まれてきた状況や、それを使い終わった後にどうなっていくのか…… のように、誕生から終焉まで、モノの一生を想像すること、そこまでを含めて創造することが「デザイン」の仕事であると。そして、そこが意識されているモノが発揮するパワーは、本当に凄いと思います。

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暮らしをリデザインするためにできること

色・形・機能だけでなく、その前後の時間の広がりまでを含める形に「デザイン」の概念自体を変えていかなければならない……。というお話しは、30周年を迎え、この先に向かっていくリビングデザインセンターOZONEにとっても、とても大きな課題となります。

佐藤 そうですね。「若い世代の話を訊いたほうがいい」と言った意図は、まさにそこです。

佐座 環境のために何をしなければならないか、ゴールは見えていたとしても、そのプロセスが楽しいものでなければ誰も参加してくれませんから、そのプロセス自体をデザインすることが大切なわけです。環境に優しい世界の方が、心にも体にも良いし、楽しいんだよ……、ということをどう伝えていけるか、そのコミュニケーション方法のリデザインが問われているのだと思います。

OZONEや建築、インテリアに関わる人たちが持つ「暮らしのデザイン」というテーマは、それをライフスタイルやリビングスペースの中に、どう採り入れていったら良いのか、直接、かつ具体的に生活者に伝えることのできる、とても大事な役割を持っています。OZONEがこれからもサステナブルな暮らしの発信をするということであれば、環境や健康など、スタイリッシュさや便利さ以外の価値もしっかり提案していってほしいと思います。

佐藤 今年も「観測史上もっとも暑かった夏」になってしまいましたし、ここ数年の異常な暑さや自然災害の多発に接して、人々はこれまで以上に危機感をもったのではないでしょうか?
もう誰にとっても「他人事」ではなく、自分に害が及ぶ事態に直面しています。建築やインテリアの分野だけでなく、あらゆる産業界において、生物多様性や森林破壊・劣化に関するリスクの証明、物流・製造などサプライチェーンの使用エネルギーやCO2排出の管理、公開などが求められる時代の中に私たちは暮らしているのです。

「スペンドシフト」という言葉があります。消費という行為により「未来を変える」のです。モノをつくること、消費することで、社会に環境に、未来に、いかに貢献するのか。
そのバックストーリーがしっかりと語れない、あるいは明らかにできないような商品は、何か薄っぺらなものとして、選択されなくなっていくんじゃないでしょうか。
スーパーで売られている野菜は、生産地はもちろん、農薬や化学肥料の使用の有無、生産者の顔写真まで出ているものもあります。衣料品だって、オーガニックやフェアトレードのコットンを使用することがあたりまえのようになってきました。

言ってみれば、衣・食・住のうち、トレーサビリティの点では、「住」の分野がもっとも立ち遅れています。そこに追いついていくためには、消費者・生活者に適切な情報を提供していくことが重要です。OZONEにはそうした役割を率先して担っていただきたいですね。

最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いいたします。

佐藤 地球環境や、そのサステナビリティに資する活動に関しては、建築やインテリアデザインの世界も無縁じゃない……どころか、完全なる「当事者」ですので、その責任感を意識しながら行動していきたいですね。日本にも佐座さんたちのようにがんばっている若い世代がいます。
彼女たち、彼らが世界から集めてきて……日本に向けて発信する情報にぜひ注目して、いま、世界で何が起こっているのか、常日頃から話題にしていくようなところから始められたらどうでしょうか。

佐座 今後は、環境のために良い商品を選ぶということを、一部の意識の高い消費者やデザイナー、メーカーだけでなく、すべての人が当たり前に行うスタンダードな生活スタイルにしていくことが重要です。

私たちはもう十分地球からモノを獲り過ぎてしまったので、これからは、”これ以上生産していいのか?” ”今あるものの再利用で賄えないのか?”と常に考え、これまでの大量生産・大量消費の社会とビジネスを、どうやって「継続」するかではなく、どうやってリデザインしていくかが問われています。私たち消費者も、「買う」ことだけが本当に幸せなのか、モノに囲まれることだけが本当に幸せなのか、吟味する必要があると思います。

そして、2030年のSDGsゴール、2050年までの温室効果ガス削減を目指す「パリ協定」という目標を実現するためには、「家を建てる・家に住む」ということが、これまでとはまるで違う意味を持つことを、強く意識していきたいですね。環境にとってプラスになるさまざまな選択肢が既に用意されています。それを賢く選んでいくことが、住環境やインテリアに興味のある皆さん一人ひとりにできる環境貢献だと思います。
私たちもそれを使いたいとか、変えていきたいと思うような「リデザイン」が当たり前になったらうれしいですね。

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SHIBUYA QWSにてインタビュー(2024年8月収録)
撮影/大倉英揮


※文中敬称略
※2024年10月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

(※01)FSC認証…国際NGO「森林管理協議会」(Forest Stewardship Council)による、適切に管理された森林から生産された木材や製品に与えられる認証制度。森林の環境保護、社会的利益、経済的持続可能性を確保するために設けられたもの。日本ではNPO法人「FSCジャパン」が運営している。

What's Living Design? Vol.9
佐座マナ×『ELLE gourmet』編集長 トークイベント
食から始めるサステナブルで豊かな暮らし

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私たちは日々の食事と、地球環境の繋がりをどれだけ感じながら暮らしているでしょうか?
本トークイベントでは、サステナブルな社会の実現に向けて世界各地で活動している若きリーダー佐座マナさんと、世界のフードシーンをけん引する食のバイブル『ELLE gourmet(エル・グルメ)』編集長の影山桐子さんにお話しを伺いながら、サステナブルな「食」の未来について考えます。

日程:10/27(日) 14:00~
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