産業廃棄物リサイクル処理プラントから出る瓦礫くずを、「東京の土着の素材」と見なして創作を続けるコンテンポラリー・デザイン・スタジオwe+。その最新作である照明器具「Remli」が、今秋OZONEにて展示されるこの機会にお話を伺い、その開発秘話や活動の背景から、彼らの創作の秘訣に迫ります。
現在の「産業のためのデザイン」が見落としてきているものにこそ、デザイン本来の目的が埋まっている-彼らがデザインに込めた想いを伺ううちに、「サステナブル」に対する彼らのユニークなスタンスも浮き彫りになってきました。

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Photo: Hiroshi Iwasaki
Remli(2024)
東京近郊の産業廃棄物リサイクル処理プラントにおいて、再生利用可能な素材が選別・回収された後に残った細かい瓦礫くずを材料としてデザインされた照明器具。we+による研究プロジェクト「Urban Origin」と、ポータブル照明ブランド「Ambientec」との共同開発によって製品化・市販されている。

we+

リサーチと実験に立脚した手法で、新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリー・デザイン・スタジオ。林登志也と安藤北斗により2013年に設立。
利便性や合理性が求められる現代社会において、見落されがちな多様な価値観を大切にしながら、私たちを取り巻く自然や社会環境と親密な共存関係を築くオルタナティブなデザインの可能性を探究。デザイナー、エンジニア、リサーチャー、ライターといった多彩なバックグラウンドやスキルを持つメンバーが集い、日々の研究から生まれた自主プロジェクトを国内外で発表。そこから得られた知見を生かし、R&Dやインスタレーション等のコミッションワーク、ブランディング、プロダクト開発、空間デザイン、グラフィックデザインなど、さまざまな企業や組織のプロジェクトを手がけている。

「リサーチと実験に立脚した手法」とは?

—we+のデザイン手法の特長として、「リサーチと実験に立脚した手法」が挙げられますが、具体的にどのような方法でしょうか?

安藤 私たちが2023年に手掛けたリサーチプロジェクトに、京都の丹後で営まれている絹織物の工程をリサーチし、その成果を展覧会「KYOTO ITO ITO Exploring Tango Threadsー理想の⽷を求めて」として発表したものがあります。昔の人たちは、自宅の屋根裏などで蚕を育て、その繭から生糸を作り、織物にして、それが破れたら別の物に仕立てて…糸も布も服も、ものすごく生活と密接に関係し合っていましたよね。ある種の「デザインの地産地消」です。でも、現在の私たちは、常に肌に直接「糸」が触れる状態で生活していても、その出自を気にすることはほとんどない。そこには効率性・経済性・利便性を優先して、「工場で作った物を量販店で買う」ことが常態化してしまった、今の私たちの生活の姿があります。

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リサーチプロジェクト「KYOTO ITO ITO」(2023)
we+とNUNO、大垣書店によって立ち上げられたリサーチプロジェクト。京都・丹後エリアの養蚕・製糸・製織という絹織物ができるまでの各工程をwe+がフィールドリサーチし、その成果を展覧会「KYOTO ITO ITO Exploring Tango Threadsー理想の⽷を求めて」として発表したもの。

安藤 私たちが「リサーチ」を重視するのは、デザインが向き合うべき「物の本質」に気づくためと言えるかもしれません。この糸はどこから来て、誰が、どのように作り、布になったのか…私たちも、糸の生産現場に出向き、フィールドリサーチをするまで、そのディテールやリアルな実感は知りませんでした。どんなデザインを手掛けるにしても、素材が持つ表層的な情報は知っていても、本質的な情報にはリーチできていない。だからこそ足を使ってリサーチすることを重視しています。

便利さを享受する良い面もありますが、それにしても加速が速すぎやしないか?という疑問があります。長い年月をかけて培ってきた人間と物とのバランスや文化が、急速に失われている。私たちはデザインを行う上で、そうした部分に目を向けていきたいということです。あとは、素材の成り立ち方を知った上でものを作ることが、感覚的にとても楽しいです。
扱い方や付き合い方を分かった上でものを作る喜びは、なるべくいろいろな人に知ってもらいたい。「KYOTO ITO ITO」のアウトプットが「展覧会」であったように、リサーチの成果を展示会や本、写真や動画によるウェブでのレポートのような形でも発表しているのには、そうした思いも込めています。

—そうした広いデザインの概念の中で、「サステナビリティ」という視点は、どのように位置づけられるのでしょうか?

デザイナーとしてサステナビリティをどう考えるかに関しても、自分たちなりに調べたり、フィールドワークしたり、手を動かしたりすると、社会的に大問題と言われていることが、実はそんなに大したことではなく、本当は別のところに大きな問題や原因があることに気づく…というようなことはよくあります。例えば、廃棄物問題では、とにかくゴミを減らせと言われますが、廃棄物処理場やリサイクル施設では、すごい精度で分別作業をしていて、可能な物はほとんどリサイクルできる仕組みが構築されています。それでも最後まで残ったものは、埋め立てるしかないとなるのですが、「そもそも分別できるもの作りをしていない」ことこそ問題の本質だと、つまり「デザインの責任」に気づくのです。

あるいは、分別して再利用できる状態にしても、受け入れる処理施設や仕組みがないために、遠距離の場合によると海外に送るしかなかったりすることも。「その費用や輸送時に排出するCO2はどうなのか?」「結局は日本で埋め立てたほうが環境に優しいのではないか?」…というように本末転倒なことが見えてくることもあります。だから私たちは、リサーチをしっかり行って、自分たちなりの理解とアウトプットで知り得たことをきちんと伝えることを心掛けていますし、そこまでが「デザイナー」の仕事だと思っています。

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we+のリサーチプロジェクト「Urban Origin」の根幹を成す作業。産業廃棄物リサイクル処理プラントで、分別し尽くされた後に残る「廃棄物の中の廃棄物」の中から、創作の種となる、「東京の土着の素材」を回収していく。

都市廃棄物を土着の素材と捉える「Urban Origin」の精神

—リサーチとデザインとの一体的な活動の一つとして、「Urban Origin」というコンセプトも提示されていて、「Remli」もそのラインでの最新作ということですが…

安藤 「Urban Origin」は、リサーチプロジェクトの一つの方向性ですね。先ほどの「KYOTO ITO ITO」で、デザインの地産地消という話をしましたが、秋田の「曲げわっぱ」の杉、愛知県の瀬戸物の土などのように土着の素材と向き合うことで、新しいデザインを磨きだしていく活動に私たちは魅力を感じています。東京で暮らし、スタジオを構えている私たちにとっての「東京の土着の素材」とは何だろう?…自分たちにとっての本当にローカルな素材は何か?と、足元を見つめ直したときに、スクラップ&ビルドをひたすら繰り返す世界でも稀有な都市である東京にとって、「廃材」こそ向き合うべき土着の素材と言えるのではないか?と考えるに至りました。

この廃材を活用したシリーズは、「サステナブル」とか「エコロジー」のような文脈で始めたわけではなく、私たち東京人にとっての「土着の素材」を探し求めていった結果、ここに辿り着いてしまった、というのが本当のところです。利便性や合理性だけを追い求めたデザインからは、背景の情報がこぼれ落ちてしまうと考えていますが、この「Remli」も最終的なアウトプットのデザインだけを目の前に出されたら、そこまでのプロセスを知ることなく、享受するしかないわけです。そこにある文化的な背景、土地の持つ特徴や魅力、そういった物もひっくるめて、もの作りに落としこんでみる…。「Urban Origin」でやりたいのは、その「東京版」ということになりますね。

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Photo: Masayuki Hayashi
「Remli」誕生のきっかけともなった、「Urban Origin」プロジェクトの一つ。瓦礫くずを粉砕し、焼き物として再生した「Remains」シリーズ。

—「Remli」の開発は、どのようなきっかけで始まっていったのでしょうか?

安藤 同じ「Urban Origin」プロジェクトとして、先に「Remains」という試みがありました。これは東京の産業廃棄物リサイクル処理プラントで、再生利用可能な素材が選別・回収し尽くされた、「廃棄物の中の廃棄物」と呼ばれるような、細かい瓦礫やガラスの「くず」を使っています。それを細かく粉砕し、混ぜて窯で焼成すると、ガラスくずが接着剤の役割を果たして固まり、見たこともないような風合いの「焼き物」が出来上がります。「Remli」も途中までは同じ工程で、粉末状に細かく砕いた「くず」を土と混ぜ、ペースト状にした物を左官技術の鏝(コテ)仕事で照明機器の表面に塗る…。というアプローチで作っています。

変な話ですけど、廃棄物処理場に行って、もう分別しきれない最後の最後の細かい瓦礫が山になっている、その姿がなんだか不思議にカッコよかったんですよね。最後まで生き残った精鋭たちみたいな佇まいで(笑)。あの感覚は面白かったですね。

安藤 それが私たちにとっては宝の山だったわけです。

今は建設業界でも「ゴミ」という言い方をやめて、「資源」「資材」と言い換えていて、これは良いことですよね。私たちから見ても、廃棄物処理プラントは「ゴミ処理工場」ではなく、「面白い素材が見つかる場所」のような感覚です。何事もそういう視点で見ていくと、ちょっと違う頭の使い方になって、楽しくなってくるんですよね。

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「Remli」(2024)の製作工程。リサイクル処理プラントから出る細かいくずをミルで粉砕し、土と混ぜ合わせ、左官技術によって照明機器の表面に塗ることで、再生利用が難しく、埋め立てに回されてしまう廃棄物の新たな価値を探っている。

照明器具「Remli」のデザイン

—「Remli」の照明器具としてのフォルムや機能は、どのようにデザインされていったのでしょうか?

左官仕事の土のぬくもりが感じられるテクスチャーや、含まれているガラスくずのキラキラとした表情、そこに光がどう反射するのか…という、素材感と光の相性を考えて、光源を見せないレイアウトやこのフォルムが生まれました。あとは素材の持つ温かみをどう気持ちよく伝えるかを考えて、サイズ感や重量バランスも決め込んでいます。また、本来はテーブルの上に乗るようなものではない「土と廃材」で出来ているものなので、そこを違和感なく、テーブルランプとして使っていただけるように、置かれるテーブル側の素材との相性や、接地面の仕上げ、デザイン的なスタイリングなども、かなり細かく調整して仕上げました。

—「Remli」は、照明器具メーカーAmbientecさんとの共同開発製品でもありますね。

安藤 コンセプチュアルなデザインをピュアに表現するwe+本来の方向性と、照明器具としての機能性や市販品としての量産性を両立させていくのが一つの大きな課題でした。本体とは別の、基底部に取り付けるアダプターを介してUSB-Cで充電する形式になっています。そのため、どの国でも電圧を気にせず充電することが可能です。この充電アダプターも、Ambientecさんの既存の機種をそのまま使えるように設計してあったり、光源のLEDもすべて交換対応していたりと、マスプロダクトの中で磨かれてきたAmbientecさん側のサステナブルな考え方も十分に含んだ製品になっています。

「Remli」に対するミラノサローネでのリアクションとしては、埋め立てに行くしかない廃棄物を製品化するというストーリーに共感してくれる方がすごく多かったですし、「東京の土着の素材」として扱っていることをしっかり理解してくださる方も多かったですね。そのため、「他の土地なら、他の素材で同じアプローチができるのか?」という問い合わせもあって、たとえばレジデンスとか公共施設に、その土地の素材を使った「ご当地Remli」のような製品を置いてみたい…というような引き合いも少しずつ来ています。

—サステナブルに資するデザインというと、地球に優しい素材を使おうという発想から始まりがちですが、「自分たちにとっての土着の素材」を探し求めた結果がサステナブルな素材だった…。というのは、動機と結果が逆転したようで、本当にユニークな発想ですね。

そうですね、ただ一つ問題なのは、この考え方を理解していただくのに、いつも30分ぐらいかかってしまうことなんですよね(笑)。意識して「サステナブルなことをしよう」というところから発想していくと、無理してでもそのように仕上げようと、最終的なアウトプットにどこか歪みが出てくるようなことがあります。私たちは、その方向からではなく、本当に大切なことは何なのかを考え直すところから始めていきたいです。広く浸透している「サステナブル」という言葉を選択するほうが伝わりやすいことも分かっているのですが。we+は、独自の視点でものを捉え、形にしていきたいですね。

安藤 それこそが、枝葉を伸ばしていく「別の可能性のデザイン」=コンテンポラリー・デザインにできることだと思っています。

「Urban Origin」プロジェクトでは、自分たちがその素材の特性なり、出自みたいなものを理解すること、かつ、自分たちの手で作るということを特に大切にしています。この「Remli」でも、工程の全てに私たちも参加しています。そうすると、いかにこの素材が扱いにくいかとか、熱いとか、重いといったことを身体的に理解できるようになりますし、自ずと「これをさらに廃棄すると、どうなのだろう?」というところにも理解が及ぶようになります。サステナブルなことをしようとして始めたデザインではないですが、結果的には、誰よりもその実態を体験・体感・理解することになりました。

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Photo: Giuseppe De Francesco
Remli(2024)

—最後に、サステナブルな社会や生活の実現に対して、デザイン、あるいはデザイナーが果たすべき役割のようなものに対して、お考えを伺えますか。

自分が把握できている素材で、自分に納得して正直にものを作る…。という姿勢が、今のデザイナーには大切なことではないかなとは思います。かつ、やはりデザイナーという職能なので、それをより分かりやすく、魅力的に伝えていくことを目指したい。「サステナブル」という言葉には、やや禁欲的なところがあって、ちょっとつまらない…というか、「お利口さん」的なニュアンスが含まれてしまっている。でも、みんなが惹きつけられたり、賛同していくものって、とにかく面白そうだったり、魅力的だったりするものですよね。だからこそ、それを上手に調理していくのもまた、デザイナーの役割であり、デザインの役割なのではないかなと思っています。

安藤 私も、「手の届く範囲でもの作りをしていきたい」という気持ちが強いですね。身近なところから新しい可能性を探っていきたいし、そうでないと、どうしても上滑りしてしまうというか、本質に辿り着けないような気がしますし、自分たちの中にきちんと根を張っている感覚の中で、社会に対してもの作りをしていきたい、という意味で、リサーチや「Urban Origin」の考え方を大事にしているので。

丁寧に素材と向き合い、ものと向き合う作業を続けていると、必然的にサステナビリティにつながっていくと思っていて、丁寧にやればやるほど、正体の分からないもの、いい加減な素材は使いたくなくなってくるんです。そういう感覚をデザインやもの作りを通して、それを使う方にも伝えることができれば、サステナブルな感覚や、その価値観を持った暮らし方に、より自然な形でつながっていくのかな…。と考えています。

特別展示
東京の廃材から生み出された照明「Remli」

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本展示では、リサーチと実験に立脚した手法で、新たな視点と価値をかたちにするwe+の活動を実物や製造過程の解説パネルなどを通じてご紹介します。 埋め立てるしかない廃材が、美しいテクスチャーやフォルムの照明となって再び暮らしの中に溶け込む「we+」のデザインをぜひ会場でご覧ください。

会期:2024年10/24(木)~11/26(火)
展示会場:リビングデザインセンターOZONE 3Fエントランス

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わたしのサス活 -未来のためにできること-

この秋、リビングデザインセンターOZONEでは『わたしのサス活 -未来のためにできること-』をテーマに、さまざまなトークイベントや展示、ワークショップなどを開催します。未来につながるサステナブル活動の輪を一緒に広げてみませんか。

期間:2024年9/12(木)~11/26(火)

※文中敬称略


※2024年10月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

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