高耐久素材の開発から家具生産まで自社で手がけるイタリアのインテリアメーカー、パオラレンティ社は、環境と社会のサステナビリティへの意欲的なアプローチでも高く評価されています。同社の哲学と実践について、東京ショールーム ジェネラルマネージャーのサーシャ・カイザーさん、ブランドマネージャーの安田裕子さんに伺いました。
「自然が最も美しい」という信念のもとに
ー御社は2000年代半ばにカラフルで洗練されたアウトドア用のラグや家具で注目されるようになりました。創業者パオラ・レンティさんはどういった経緯でアウトドア家具を手がけるようになったのですか?
安田
パオラは1994年にグラフィックデザイナーとして独立し、地元のMeda(メーダ)という町でフェルトのラグのワークショップをしていました。ステッチを施したラグのカラーがとても独創的だと注目され、ほどなくフェルトのラグに合う家具をラインナップに加えるようになります。当時はまだ室内用のみでした。
転機は2002年、アウトドア家具に着目したことです。当時はイタリアでもアウトドア家具は使い捨てのようなものや、あまりこだわりのない素材のものが多かった中、彼女はアウトドアこそ自分が独創性を発揮する場になるのではないかと考えました。そのときアウトドア向けの素材の開発から始めたのがパオラの特徴です。
カイザー パオラは理想の繊維を探して様々な業者に相談し、学術機関の協力を得て、100%リサイクルが可能で、高い耐久性のある糸でロープという素材をつくり出しました。それによってデザイン性と機能性にすぐれた、鮮やかなカラーのアウトドア家具が実現します。その後もビーチや海上など、より厳しい条件に耐えられるようにロープをコーティングしてさらに強くした素材を開発するなど、素材の研究はずっと続けられています。
ー環境やサステナビリティに対する意識はどの段階から?
安田
パオラにとって自然や環境は常に大切な存在です。彼女にとって自然は一番美しい存在であり、絶対的なもの。自然の存在感を超えないことを、初めからデザインのルールとしてきました。デザインするときにも糸を作るときにも、彼女の生み出す色は全て自然の色を落としこんだものです。すごく大胆に思える配色でも、アイディアのもとは花や海の生き物であり、彼女のプロダクトは主張するというより、自然と調和することを目指しています。
また、設立当初から、物を作る、生み出すということは、廃棄とも隣り合わせになるので、できるだけ無駄なものを出さないという観点で事業を進めてきました。バイオプラスチック問題に取り組む企業の中綿素材を採用するなど、パートナー企業を選ぶ場合も、パオラはその会社の開発や活動の姿勢を重視しています。物を作る責任として社会的な影響力を考えていて、価値観を共有するパートナーが選ばれます。
カイザー 環境への負荷を減らすことは、企業活動のあらゆる面で意識して取り組んでいます。現在イタリアの本社には紙カップなどの使い捨ての消耗品やペットボトルはありません。またパッケージの梱包材もゴミが多く出てしまうので、環境への負荷を少なくするため自社再生が一部で始まりました。家具の組み立て方法もできるだけシンプルにして、必要な道具を減らそうとしています。
地元の産業、文化のサステナビリティに貢献
ー材料調達から製造をイタリア国内で行い、輸送と物流に関わるCO2の抑制をされているということですが、これも設立当初からの狙いですか?
安田 どちらかというとクラフトマンシップの重視が先ですね。やはりイタリアの手工芸の歴史には非常に深いものがあり、最新の科学技術や機械を使用しながらも「人の手で作るものが一番すばらしい」という考えを彼女は持っています。企業としてクラフトマンシップを重視することは、環境への配慮プラス社会的責任として、手工芸の担い手を育成していくという面もあります。なお、ファブリックや繊維の部分は糸から全て自社で製作しています。
ー人そのものを大切にする企業なんですね。
安田 そうですね。ファミリー的な企業でもあり、早期からのメンバーがほとんど残っています。若い人もどんどん加わっていますが、今もイタリア本社は家庭的です。部門が違う人同士も、もちろんお互いの顔を知っています。工場も含めて社員同士の仲が良く、本社に行くと心地良いというか、あたたかい感じがします。
カイザー 今、大手のメーカーさんは人件費が安い国に外注したりしますが、パオラは逆にローカルの経済を回していこうと、金属やタイルなどはできるだけ本社のあるメーダの近くの業者さんに依頼しています。火山の溶岩石を使ったタイルは、溶岩石をシチリアで入手し、メーダの工場でタイルに加工してもらっています。
安田
このタイルをデザインしたマレラ・フェレーラさんはシチリア出身のファッションデザイナーで、溶岩石や陶器などの伝統的な素材でシチリアを表現する作品も発表されている方でした。彼女の活動に興味を持ったパオラがシチリアに訪問した後、だんだん親友のような関係になり、「一緒に作ってみよう!」とコラボレ―ションが実現したそうです。
パオラ本人もデザイン監修をする立場なので、他社と比べるとデザイン部門の人数は少ないです。外部のデザイナーとコラボレーションするときにも、パオラとの個人同士の関係性ができていて、その結果として作品が生まれるというパターンが多いです。
端材に新たな美と価値を創造する
ー端材や廃棄物を再生する「モッタイナイ」シリーズもコラボレーションから生まれています。
安田
「モッタイナイ」の最初のコレクションは2022年に発表されました。社会的でコンセプチュアルな活動で知られるブラジルのデザイン・ユニット、カンパーナ・ブラザーズに、パオラが「プロダクトの製造でたくさんの端材が出てしまうのでどうにかしたい」と相談し、端切れがいっぱい詰まったボックスを送ったのが始まりです。彼らは子どもが宝箱をもらったように喜んでくれました。
残り物は価値が落ちるように感じる人が多いと思います。でも、残り物から予測不可能な色合いやデザインになること自体がすごく楽しくて、面白い魅力に繋がるのではないか。そこに何か美的価値を与えるのが自分たちの本当の仕事じゃないか…。そういったことを彼らは感じてくれました。
彼らが手がけたコレクションの名前「メタモルフォーゼ」には、虫の変態、幼虫がサナギになって蝶になるというイメージを持っています。このショールームに展示されている芋虫のようなソファは、まさにそれ。ロープ用の端材を裂いてお花のように縫いつけています。
カイザー この作品の製作では、イタリアの「クチュール・ミグランテ」という難民など社会的弱者の方たちの技術習得を支援するアトリエともコラボレーションしました。困難な状況の人たち自立支援は、今後も社会貢献としてやっていきたいことの一つです。カンパーナ・ブラザーズはすでに地元でそうした活動をしています。
ー端材を使うことで、逆に端材が足りなくなることは?
安田 それはないです。日々の生産活動で必ず端材はどんどん出てくるものですから。ただ、端材を使うとどうしてもデザインが均一にならなくて、当初は端材があるからといって受注は難しい段階でした。でも、その後しばらくしたら端材を使ったプロダクトのデザインをコンピューターで出せるようになり、今は次々とアイテムが増えています。実物と完全に同じ色ではないですけれど、お客さんには見本から色を選んでいただけるようになりました。