ニューノーマルと呼ばれる昨今、人々のライフスタイルへの意識や、働き方などが大きく変容している。建築とその周辺領域に対して求められる職能もまた、変化が求められている。
「WEB OZONE」では、建築を中心とするクリエイターたちがどのように働き、経営者として事務所を切り盛りしているのか、「仕事術」をテーマにインタビューを行うシリーズをスタートする。
彼らの「仕事術」とはどのようなものか? 読者それぞれの仕事にも置き換えて、考えるきっかけになればと考えている。
設計事務所のHAGI STUDIOと一般社団法人の代表を務め、飲食店と焼き菓子屋にジェラート屋、宿も経営する、建築家の宮崎晃吉(みやざき みつよし)氏。今春にはローカルメディアを発行するなど、そのマルチな「仕事術」について話を聞くインタビューの後編。
宮崎氏が場の方向性も提案して設計したリビングデザインセンターOZONEでのプロジェクトや、最新のプロジェクトについて話を聞く。マルチに活躍する宮崎氏に大きな影響を与えた建築家の存在、金言となった言葉も明らかに。
事業として「回していく」ためのデザイン
―2020年にリビングデザインセンターOZONEの3階にオープンした「カタログライブラリー」は、宮崎さんに設計をお願いしました。どんなミッションだったのか振り返っていただけますか。
宮崎OZONEからの最初の依頼は、7階にあった、建材や設備、家具のカタログやサンプルが閲覧できる機能を3階に移すこと。そこは館内でもよく人が通る”一等地”なので、場に見合った収益を上げられるようにしてほしいというものでした。そこで、前年にオープンした「西日暮里スクランブル」で実践していた「BOOK APARTMENT」のような、什器で四角いマスをたくさん用意して、そのスペースを「最小のショールーム」として有料で貸し出すことを提案しました。
宮崎ライブラリーには、アーカイブ機能も求められますが、今の時代はインターネット検索に到底敵わないので、そこは諦めるとして、アイキャッチになる書籍の収蔵スペースは外側にまわし、有料の出展スペースを多めに確保しましょうと提案し、了承されました。
出展各社さんはそれぞれ、自分たちの「最小のショールーム」を創意工夫でつくりあげています。利用者も情報をそこから引き出そうとする。そういった双方の能動性を引き出し、コミュニケーションの場が醸成されることを目指したデザインとなっています。稼働率の数字や、現場からの声を聞く限り、狙い通りに推移していると思います。
関係性をデザインする
―関係性までデザインする、というのが、宮崎さんらしいですね。
宮崎リアルな場をつくることも、関係性を構築していくことも、基本的に同じだと思いますよ。
例えば今、僕たちが準備中の『まちまち眼鏡店』は、谷中・千駄木・日暮里界隈に住む市井の人々が発信していくローカルメディアで、「hanare」のスタッフが『まちまち眼鏡店』の店長を務めるのですが、彼女がそれまでやっていた、まちの要素をつなげていく仕事と、人のポテンシャルをメディアという場で掘り下げていく作業は、どちらも同じ職能が要るんですよ。だから、メディアも建築も、基本的には同じなんです。
―『まちまち眼鏡店』というネーミングには強いインパクトがあります。
宮崎いい意味ではないけれど「色眼鏡で見る」とか言うでしょ。他の誰かの視点にたってまちを眺めると、それまで見えなかった物事がいきなりぶわっと立ち現れるんです。たとえばこのあいだ、路上園芸鑑賞家の村田あやこさんと一緒に界隈を歩いたんですけど、いろんなレイヤーが見えてきて、すごくおもしろかった。そういう体験をいろんな人にしてもらいたいと、「眼鏡」という比喩に託しています。
出してすぐ休刊、なんてならないよう、初期費用への支援をクラウドファンディングで募りました。それと、立場ごとに分類した会員制にして、安定した運営資金で発行を継続できるように考えました(下の図)。